塔之沢温泉

塔ノ澤溫泉
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

湯本温泉の西約0.5km、自動車の通路です。電車塔ノ沢駅からは南へ約0.5kmの坂を下ります。塔ノ峰の南麓にあたり、早川の流れが迂回してS字形となって岩の間をめぐるところに、橋を架け、道を開いて湯宿が軒を連ねています。明の朱舜水が水戸の光圀に従ってここを訪れた際、支那の驪山の温泉より勝っていると歎賞したので、玉の緒橋と相対する山並みを勝驪山といっていましたが、大正12年(1923年)の大震災のために崩壊してかなりその風景美を削がれました。塔ノ峰を約2km登ると浄土宗の阿弥陀寺があり、開祖禅誓籠居の岩窟があります。浄瑠璃「箱根霊験躄仇討」で初花が夫の勝五郎に「ここらあたりは山家ゆえ紅葉があるのに雪が降る」と語ったのはこの寺でのことと伝えられています。湯町の外れには東京電灯の発電所があり、その早川堰堤の池は夏はプールとなって水泳者を喜ばせています。

温泉は凝灰岩を貫く岩脈の間から湧出し、単純泉で温度49度、リウマチ、婦人病、脳神経系統の諸病、胃腸病などに効くといいます。旅館は環翠楼、一の湯、福住楼、新玉の湯、与喜屋。

※底本:『日本案内記 関東篇(初版)』昭和5年(1930年)発行

令和に見に行くなら

名称
塔之沢温泉
かな
とうのさわおんせん
種別
温泉
状態
現存し見学できる
住所
神奈川県足柄下郡箱根町塔之澤
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

湯本溫泉の西約半粁、自動車の通路である。電車塔ノ澤驛からは南へ約半粁の坂を下る。塔ノ峯の南麓にあたり、早川の流の迂回してS字形をなして岩角の閒をめぐる處に、橋を架け、道を開いて浴樓が軒を列ねて居る。明の朱舜水が水戶の光圀に從つてこゝに遊んだ時、支那の驪山の溫泉に優ると歎賞したので、玉の緖橋と相對する翠巒を勝驪山と云つて居たが、大正十二年の大震災の爲に崩壞して可なりその風景美を殺がれた。塔の峯を約二粁登ると淨土宗の阿彌陀寺があり、開祖禪誓籠居の岩窟がある。かの箱根靈驗躄仇討に初花が夫勝五郞に「こゝらあたりは山家ゆゑ紅葉があるのに雪が降る」と語つたのはこの寺でのことゝ傳へられて居る。湯町の外れには東京電燈の發電所があり、その早川堰堤の池は夏はプール代りに水泳者を喜ばせる。

溫泉は凝灰岩を貫く岩脈の閒より湧出し、單純泉で溫度百二十度、リウマチス、婦人病、腦神經系統諸病、胃腸病などに效くと云ふ。旅館 環翠樓、一の湯、福住樓、新玉の湯、與喜屋。

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