雲仙岳

雲仙嶽
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

雲仙岳は九州における代表的遊覧地として勝景地として、日本八景のひとつに選ばれ、またすでに国立公園に指定され、広く世に知られています。四面を海に囲まれ水平線上から空高くそびえる雄峰で、島原半島はおおむねこの雲仙火山によって構成されています。

雲仙岳は妙見、国見、野岳、矢岳、普賢等の群峰からなり、なかでも普賢岳は最も高く、雲仙登山はこの最高峰(1,360m)の普賢岳へ登るものです。雲仙岳登山は雲仙温泉を中心として登ることができます。

普通雲仙岳登山は最高峰普賢岳に登るので公園から高さ700m、距離約6km、2時間半の行程で、登山は極めて平易です。

温泉からゴルフ場の左の灌木林を行くと指導標がいくつかあります。この付近一帯は雲仙ツツジの開花期は美観を見せ、ゴルフ場の芝生の緑は爽やかです。やがて妙見岳の南斜面を登るあたりからやや急な登りとなって展望は次第に開けて来ます。そして仁田峠(1,080m)に達します。この付近は特にツツジが多いところです。

仁田峠で左にあるものは妙見岳への登山路で、右にあるものは野岳への登山路です。普賢岳へはさらに中央の良い道を薊谷へいったん降ります。左下の渓谷は馬蹄形の凹地となった火山盆地で、赤松谷といわれています。付近に天然氷採取所があります。この一帯にはノアザミが多いので薊谷といわれています。樹木はカエデ類、ウツギ等が多く紅葉期やウツギの花盛りには美観を添えます。薊谷から左へ少し登ると頂上への近道が右にありますが急坂であるため、順路どおりに行くのがよいところです。順路は左へ灌木林のなかを鬼人谷の鞍部に達します。そこから右へ急な斜面を少し登ると九合目の小屋があります。小屋から頂上までは10分とかかりません。仁田峠からは約50分程度です。

普賢岳頂上からは島原半島の地勢は一眸に入り、島原、有明、橘の海湾はなごやかな眺めです。海上に浮ぶ白帆、天草群島は脚下に見ることができます。東は遠く阿蘇山、九住山を望み、西は橘湾を隔てて五島の島影も望むことができ、北は間近に多良岳の連嶺が島原湾に美しい裾野を曳き優美な山姿を見せています。さらに遥かの東南には霧島山、国見、市房などの九州背梁の山々も見渡され、海と陸、島と山の展望はこの山の特色です。

春のツツジ、秋の紅葉は全山非常に美観を呈します。また冬の霧氷の美観は特に知られています。

積雪量は比較的少ないのでスキーはわずかの間できますが、おおむね灌木林が多いので、わずかの積雪で滑れるのはゴルフ場付近です。

温泉付近、白雲池、広河原池、その他キャンプに適する箇所も多いところです。休火山であるため山頂付近には飲用水が少ないです。おおむね山腹帯にキャンプ地を求めることができます。

雲仙山岳の原始味を味わうには九千部山(1,062m)、鳥甲山(822m)、吾妻山(868m)、鉢巻山(638m)等の縦走は普賢岳付近と異なった面白さのあるコースで、山岳愛好家の選ぶところです。

※底本:『日本案内記 九州篇(六版)』昭和13年(1938年)発行
雲仙の霧氷 雲仙岳(絹笠山からの展望)

令和に見に行くなら

名称
雲仙岳
かな
うんぜんだけ
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
長崎県島原市、南島原市、雲仙市
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

雲仙嶽は九州に於ける代表的遊覽地として勝景地として、日本八景の一に選ばれ、また既に國立公園に指定せられ、あまねく世に知られて居る。四面海に圍まれ水平線上から空高く聳ゆる雄峯で、島原半島は槪ねこの雲仙火山に依つて構成されて居る。

雲仙嶽は妙見、國見、野嶽、矢嶽、普賢等の群峯からなり、就中普賢嶽は最も高く、雲仙登山はこの最高峯(一、三六〇米)の普賢嶽へ登るのである。雲仙嶽登山は雲仙溫泉を中心として登られる。

普通雲仙嶽登山は最高峯普賢嶽に登るので公園から高距七〇〇米、距離約六粁、二時閒半行程で、登山は極めて平易である。

溫泉からゴルフ場の左の灌木林を行くと指導標が幾つかある。この附近一帶は雲仙つゝじの開花期は美觀を呈し、ゴルフ場の芝生の綠は爽やかである。やがて妙見嶽の南斜面を登るあたりから稍急な登りとなつて展望は次第に開けて來る。そして仁田峠(一、〇八〇米)に達する。この附近は特につゝじが多い。

仁田峠で左するものは妙見嶽への登山路で、右するものは野嶽への登山路である。普賢嶽へは尙中央の良い道を薊谷へ一旦降る。左下の溪谷は馬蹄形の凹地をなす火山盆地で、赤松谷と云はれて居る。附近に天然氷採取所がある。この一帶には野薊が多いので薊谷と云はれて居る。樹木は楓類、うつぎ等が多く紅葉期やうつぎの花盛りには美觀を添へる。薊谷から左へ少し登ると頂上への近道が右にあるが急坂であるから、順路に依るがよい。順路は左へ灌木林の中を鬼人谷の鞍部に達する。それから右へ急な斜面を少し登ると九合目の小屋がある。小屋から頂上までは十分と要しない。仁田峠から約五十分程度である。

普賢嶽頂上からは島原半島の地勢は一眸に入り、島原、有明、橘の海灣はなごやかな眺である。海上に浮ぶ白帆、天草群島は脚下に一々指摘される。東は遠く阿蘇山、九住山を望み、西は橘灣を隔てゝ五島の島影も望まれ、北は閒近に多良嶽の連嶺が島原灣に美しい裾野を曳き優美な山姿を見せて居る。更に遙かの東南には霧島山、國見、市房などの九州脊梁の山々も見渡され、海と陸、島と山の展望はこの山の特色である。

春のつゝじ、秋の紅葉は全山甚だ美觀を呈する、また冬の霧氷の美觀は特に知られて居る。

積雪量は比較的少いのでスキーは僅かの閒出來るが、槪ね灌木林が多いので、僅かの積雪で滑れるのはゴルフ場附近である。

溫泉附近、白雲池、廣河原池、その他キヤムピングに適する箇所も多い。休火山であるから山頂附近には飮用水が少い。槪ね山腹帶にキヤムプサイドを求むることが出來る。

雲仙山嶽の原始味を味ふには九千部山(一、〇六二米)、鳥甲山(八二二米)、吾妻山(八六八米)、鉢卷山(六三八米)等の縱走は普賢嶽附近と異つた興味あるコースで、山嶽愛好家の選ぶ處である。

島原・雲仙のみどころ