三ツ峠山

三ツ峠山(一、七八五米)
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

1,785m。富士山麓電車線の小沼駅付近からその山容が近く望まれます。富士山を間近に望み、その裾野に散在する富士五湖の俯瞰と、富士山の眺望に良い位置を占めています。標高は余り高くありませんが富士、南アルプス、八ヶ岳、秩父などの展望台として近年よく知られ、頂上南面の屏風岩はロッククライミングの練習に好適地として人気となっています。駅から頂上まで約7km、この登路は過半尾根筋を伝い、常に富士を背にして登り、約4時間を要します。また吉田から船津に出て河口湖を経、河口村に出ても登ることができます。河口から頂上まで約5km。

小沼にある西桂村役場前で富士街道を北へ行けば、約500mで下暮地の村落に入りさらに小沢に出ます。その沢の河原を渡って沢沿いに溯ると、杉木立のなかに山祇神社の小祠があります。右に折れて約100mで左折し、谷合の山裾をダラダラ登りに杉の植林地を行くと、小沢の上流に出て急に尾根筋へ登りとなります。主に赤松の疎林で小さなジグザグを繰り返します。沢から約20分登るともう富士の全山が望まれます。さらに少し登ると尾根はいったん平になりベンチが置いてあります。富士の展望も良く、三ツ峠山頂の岩壁が見事です。そこから道はまた急坂となって、大きな赤松の混ざる雑木林になり、ところどころにツガが現れ、サルオガセが垂れています。尾根筋の急坂は石仏の立並んだところで行き止まり、左へ山腹をからみます。南面を西に等高にからんで岩壁の下を通ると小沢が2~3あって水に不自由がありません。約1kmもからむと扉風岩の下に出ます。見上げる岩壁は壮観で小さい不動の滝が岩間から落下しています。岩下を過ぎまた15分程登ると峠に出ます。峠には2棟の休憩小屋があり宿泊もできます。

峠は眺望が開け、西に南アルプス、八ヶ岳、北に秩父の連山が山波を見せて甲府盆地が俯瞰されます。峠から東に美しい草地にまばらなツガ、モミの林が趣良く立並んでいて、南面は急な岩壁が切立っています。その草地を約400m登ると三ツ峠山の頂上で三角点に出ます。頂上の真南に富士が最も近く大きく全山を現し、秀麗にして見事な広い裾野を引き、その東寄りに山中湖が明鏡のように輝きます。さらにその東には丹沢山、箱根山などが峰を重ねています。右へ眼を転ずると西、精進、本栖の湖面が西寄りの山裾に輝いています。西側の裾野の尽きるあたりに七面山が比較的小さな峰に見え、いったん山勢が劣って、南アルプスの赤石岳、東岳(悪沢岳)がそびえ、次に塩見岳、さらに西北に間ノ岳、北岳、仙丈岳、駒ヶ岳など西側はこれら大山岳の展望が賑やかです。西北には八ヶ岳が比較的鋭い峰に見え、その北に金峯山、国師岳、甲武信岳など秩父の連山が眺められ、北に大菩薩嶺が間近に望まれます。

頂上から峠の小屋へ降り、西南の草地の尾根に出ると、眼下に河口湖が現れ、湖岸の河口村、船津などが俯瞰されます。茅地の斜面には幾筋も道がありますが、西南面を河口湖へ向かっての下りはわずか1時間半位です。最初は急な草地でそこを下りきると、しばらく落葉松の林となり、小沢の右上手の松林をからみ気味に降れば、河口の集落の杉森にある神社と小学校のところに出ます。河口から船津へ約5kmですが湖畔からモーターボートで約15分、この山は東京から週末のピクニツクに良いところです。

※底本:『日本案内記 関東篇(初版)』昭和5年(1930年)発行

令和に見に行くなら

名称
三ツ峠山
かな
みつとうげやま
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
山梨県都留市ほか
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

富士山麓電車線の小沼驛附近からその山容が近く望まれる。富士山を閒近に望み、その裾野に散在する富士五湖の俯瞰と、富士山の眺望に良い位置を占めて居る。標高は餘り高くないが富士、南アルプス、八ケ嶽、秩父などの展望臺として近年著しく知られ、頂上南面の屏風岩はロツク、クライミングの練習に好適地として興味を惹いて居る。驛から頂上まで約七粁、この登路は過半尾根筋を傳い、常に富士を背にして登り、約四時閒を要する。また吉田から船津に出て河口湖を經、河口村に出ても登られる。河口から頂上まで約五粁。

小沼にある西桂村役場前で富士街道を北へ行けば、約五〇〇米で下暮地の村落に入り更に小澤に出る。その澤の河原を渡つて澤沿ひに溯ると、杉木立の中に山祇神社の小祠がある。右に折れて約一〇〇米で左折し、谷合の山裾をダラダラ登りに杉の植林地を行くと、小澤の上流に出て急に尾根筋へ登りとなる。主に赤松の疎林で小さなジツクザツクを繰返す。澤から約二十分登るともう富士の全山が望まれる。尙少し登ると尾根は一旦平になりベンチが置いてある。富士の展望も良く、三ツ峠山頂の岩壁が美事である。それより道はまた急坂となつて、大きな赤松の混じた雜木林になり、處々に栂が現れ、さるおがせが垂れて居る。尾根筋の急坂は石佛の立竝んだ處で行詰まり、左へ山腹をからむ。南面を西に等高にからんで岩壁の下を通ると小澤が二三あつて水に不自由がない。約一粁もからむと扉風岩の下に出る、見上げる岩壁は壯觀で小さい不動の瀧が岩閒から落下して居る。岩下を過ぎまた十五分程登ると峠に出る。峠には二棟の休憩小屋があり宿泊も出來る。

峠は眺望が展け、西に南アルプス、八ケ嶽、北に秩父の連山が山波を見せて甲府盆地が俯瞰される。峠から東に美しい草地に斑らな栂、樅の林が趣良く立竝んで居て、南面は急な岩壁が切立つて居る。その草地を約四〇〇米登ると三ツ峠山の頂上で三角點に出る。頂上の眞南に富士が最も近く大きく全山を現し、秀麗にして美事な廣い裾野を引き、その東寄りに山中湖が明鏡の樣に輝く。尙その東には丹澤山、箱根山などが峯を重ねて居る。右へ眼を轉ずると西、精進、本栖の湖面が西寄りの山裾に輝いて居る。西側の裾野の盡きるあたりに七面山が比較的小さな峯に見え、一旦山勢が劣つて、南アルプスの赤石嶽、東嶽(惡澤嶽)が聳え、次に鹽見嶽、尙西北に閒ノ嶽、北嶽、仙丈嶽、駒ケ嶽など西側はこれら大山嶽の展望に忙しい。西北には八ケ嶽が比較的銳い峯に見え、その北に金峯山、國師嶽、甲武信嶽など秩父の連山が眺められ、北に大菩薩嶺が閒近に望まれる。

頂上から峠の小屋へ降り、西南の草地の尾根に出ると、眼下に河口湖が現れ、湖岸の河口村、船津などが俯瞰される。茅地の斜面には幾筋も道があるが、西南面を河口湖へ向つての下りは僅か一時閒半位である。最初は急な草地でそこを下りきると、しばらく落葉松の林となり、小澤の右上手の松林をからみ氣味に降れば、河口の部落の杉森にある神社と小學校の處に出る。河口から船津へ約五粁であるが湖畔からモーターボートで約十五分、この山は東京から週末のピクニツクに良い。

吉田・富士五湖のみどころ