東京天文台

東京天文臺

昭和初期のガイド文

省線電車武蔵境駅の南3.5km、京王電車上石原停留場の北2km。三橋村大沢、東経139度32分29秒、北緯35度40分21秒、海抜57mに位置しています。大正13年(1924年)東京市麻布区からここに移転しました。敷地面積30万m²、子午環室は蒲鋒形屋根、第一赤道儀室、天体写真儀室、卯酉儀室は円屋根、経緯儀室、子午儀室は角屋根でともに鉄筋コンクリート造、このほか本館、太陽写真儀室、聯合子午儀室など木造の建築があります。無線電信の鉄塔は3基その高さ60m、なかでも強固な基礎工事を施した子午環室は、要塞のそれに匹敵し、南北約100mに各1基の子午環標を控え、荘重雄大ですばらしい景観です。このなかにはゴーチュー20.3cmの子午環を収めています。この室は本館の後方にあります。聯合子午室には口径6cm、倍率110倍の千午儀2基を備え、日没後恒星の子午線通過によって時刻の測定を行い、時辰儀の誤差を100分の1秒まで正し、中央標準時午後9時(グリニッジ時0時)に有線電信をもって銚子、船橋両無線電信局に通報し、同所より無線電信で時刻の報知を発信させています。これによって大洋を航行する船舶艦艇は航路を正すことができます。同標の報時は午後9時のほか午前11時にも行います。さらに正午に東京中央郵便局を経て、全国の電信局、横浜、神戸、門司の報時球信号所、東京市の号砲信号所、東京帝国大学地震学教室へ有線電信で報時しています。本館報時室には地下室があってそこにリーフラー標準時辰儀を置き、排気した硝子管に入れ、観測によって得た時刻はすべてこれに移し、報時はこの標準時辰儀を基礎として行います。

またフィリピン、仏領インドシナ、ジャワ、ハワイ、フランス、ドイツから無線電信報時を無線受信装置に受け、観測によって決定した時刻と比較して経度の測量を行っています。

構内には測地学委員会の設けた測量基線があります。100mの等辺三角形を合せた菱形の辺です。参謀本部の陸地測量部ではここに一等三角点を置き、全国の県三角点の経緯度測定の基準点としています。天体写真儀室には口径20.3cm、焦点距離127cmの赤道儀を備え、新星、慧星、小惑星などを天館写真に撮影し、また太陽の直接像写真撮影によって太陽黒点の消長を調査します。

太陽写真儀室では口径30.5cmの平面反射鏡を有するサイデロスタット、口径12.8cmの太陽分光写真儀および引伸器を備え、約6cmの太陽像を作り、スペクトル線中カルシウムのK線によるスリットの移動によって太陽全面における白紋の分布状態の変化を研究しています。

第一赤道儀室には口径20.3cmの赤道儀を備え、慧星のような異常天体の出現に際し、実視観測を行い、また変光星などの観測もしています。正門に向かって左に円屋根が見えるのはこれです。毎年春秋2回を限って望遠鏡による天体観測を希望の方に許可しています。

※底本:『日本案内記 関東篇(初版)』昭和5年(1930年)発行

令和に見に行くなら

名称
東京天文台
かな
とうきょうてんもんだい
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
備考
現在の「国立天文台」です。
住所
東京都三鷹市大沢2-21-1
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

省線電車武藏境驛の南三粁半、京王電車上石原停留場の北二粁。三橋村大澤、東經百三十九度三十二分二十九秒、北緯三十五度四十分二十一秒、海拔五十七米に位する。大正十三年東京市麻布區よりこゝに移轉した。敷地面積三〇萬平方米、子午環室は蒲鋒形屋根第一赤道儀室、天體寫眞儀室、卯酉儀室は圓屋根、經緯儀室、子午儀室は角屋根で共に鐵筋コンクリート造、この他本館、太陽寫眞儀室、聯合子午儀室など木造の建築がある。無線電信の鐵塔は三基その高さ六〇米、中にも子午環室は基礎工事最も强固で、要塞のそれに匹敵し、南北約一〇〇米に各一基の子午環標を控へ、莊重雄大で一偉觀を呈する。この中にはゴーチユー二〇糎三(八寸)の子午環を藏めて居る。この室は本館の後方にある。聯合子午室には口徑六糎、倍率百十倍の千午儀二基を備へ、日沒後恆星の子午線通過により時刻の測定を行ひ、時辰儀の誤差を百分の一秒まで正し、中央標準時午後九時(グリニチ時零時)に有線電信を以て銚子、船橋兩無線電信局に通報し、同所より無線電信で時刻の報知を發信させる。これにより大洋を航行する船舶艦艇は航路を正すことが出來る。同標の報時は午後九時の外午前十一時にも行ふ。更に正午に東京中央郵便局を經て、全國の電信局、橫濱、神戶、門司の報時球信號所、東京市の號砲信號所、東京帝國大學地震學敎室へ有線電信で報時する。本館報時室には地下室があつてそこにリーフラー標準時辰儀を置き、排氣したる硝子管に入れ、觀測によつて得た時刻は凡べてこれに移し、報時はこの標準時辰儀を基礎として行ふ。

またフイリツピン、佛領印度支那、ジヤヴア、ハワイ、フランス、ドイツより無線電信報時を無線受信裝置に受け、觀測により決定せる時刻と比較して經度の測量を行つて居る。

構內には測地學委員會の設けた測量基線がある。一〇〇米の等邊三角形を合せた菱形の邊である。參謀本部の陸地測量部ではこゝに一等三角點を置き、全國の縣三角點の經緯度測定の基準點として居る。天體寫眞儀室には口徑二〇糎三、焦點距離一二七糎の赤道儀を備へ、新星、慧星、小惑星などを天館寫眞に撮影し、また太陽の直接像寫眞撮影により太陽黑點の消長を調査する。

太陽寫眞儀室では口徑三〇糎五の平面反射鏡を有するサイデロスタツト、口徑一二糎八の太陽分光寫眞儀及引伸器を備へ、約六糎の太陽像を作り、スペクトル線中カルシウムのK線によりスリツトの移動によりて太陽全面に於ける白紋の分布狀態の變化を硏究して居る。

第一赤道儀室には口徑二〇糎三の赤道儀を備へ、慧星の如き異常天體の出現に際し、實視觀測を行ひ、また變光星などの觀測をもする。正門に向つて左に圓屋根の見えるのはこれである。每年春秋二囘を限り望鏡による天體觀測を特志の人に許可する。

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