鎌倉国宝館

鐮倉國寶館
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

鶴岡八幡宮の境内にあり、鎌倉および神奈川県下の社寺などの宝物を保管陳列して、一般に公開することを主な目的として建設されたもので、鎌倉町が運営するものとして、昭和3年に開館されました。鉄筋コンクリート校倉式の建築で600m²(180坪)の陳列室があります。陳列品の種類は彫刻、絵画、美術工芸品、古文書などですが、仏教に関する遺物が大部分を占めています。彫刻には仏像が多く、その時代は不安時代から室町時代にかけて30数点あり、そのうち国宝が約20点あります。国宝のなかで特に偉彩を放っているのは円応寺の初江王坐像、俱生神像、称名寺の愛染明王坐像に明月院の上杉重房像などです。初江王坐像は刀法極めて力強く写実的な趣きに富んだ木像で、胎内に鎌倉時代の建長3年(1251年)の墨書銘があり、鎌倉時代の代表的傑作です。

愛染明王像は金銅製で高さ約18cmの小像ではありますが、鎌倉時代のまれに見る精巧な作で、台座裏に永仁5年(1297年)の銘が陰刻されています。

上杉重房像は高さ68cm、室町初期の作で、首部は一木造で玉眼を嵌入し、胴体は寄木でできています。黒漆の烏帽子を戴き両眼を細く開き、目尻長く上品なヒゲをたくわえ、極めて写実的で、その温厚な面貌に重房の人となりを偲ばせるものがあります。建長寺の北条時頼像とともに肖像彫刻の代表作となっています。

このほかに円覚寺の銅造阿弥陀両脇侍像[国宝]はよく鎌倉時代の様式を伝え、いわゆる善光寺式一光三尊仏で中尊の蓮座に「文永八年十月十九日四十八日鋳奉、鋳物師賀茂延時」の鋳銘があります。

本館陳列の彫刻のなかの国宝を次に列挙します。

  • 木造不動明王像(藤原時代)極楽寺蔵
  • 木造阿弥陀如来像(同)証菩提寺蔵
  • 木造観音勢至両脇侍像(同)同
  • 木造釈迦如来像(鎌倉時代)極楽寺蔵
  • 木造十大弟子像十躯(同)同
  • 木造初江王像(鎌倉時代)円応寺蔵
  • 木造倶生神像二躯(同)同
  • 木造地蔵菩薩像(同)浄智寺蔵
  • 木造地蔵菩薩像(同)寿福寺蔵
  • 木造阿弥陀如来像(同)宝城坊蔵
  • 木造薬師如来像(同)同
  • 銅造阿弥陀如来および両脇侍像三躯(同)円覚寺蔵
  • 愛染明王像(金属製)(同)称名寺蔵
  • 銅造十一面観音懸仏(同)長谷寺蔵
  • 木造菩薩面(同)鶴岡八幡宮蔵
  • 木造舞楽面蘭陵王散手二面(同)同

絵画は50点あまりで、そのうち約20点の国宝があります。鎌倉、室町時代のものが多く、国宝のなかでは光触寺の頬焼阿弥陀縁起および光明寺の浄土五祖絵詞伝がいずれも優秀な作で、鎌倉時代の代表的絵巻物です。

美術工芸品では約40点、そのうち国宝が約10点あります。鶴岡八幡宮の国宝菊蒔絵硯箱および杏葉蒔絵平胡簶は鎌倉時代の優秀な作です。

古文書は約50点あり、そのなかに黄梅院の国宝華厳塔勧縁疏があります。瑞鹿山円覚禅師黄梅院重建華厳塔勧緑小偈井叙と題し、奥に応募者の署名を列記した巻子本で、署名の下には花押のほか、印を押捺したものがあります。

※底本:『日本案内記 関東篇(初版)』昭和5年(1930年)発行
上杉重房像(鎌倉国宝館) 倶生神像(鎌倉国宝館)

令和に見に行くなら

名称
鎌倉国宝館
かな
かまくらこくほうかん
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-1
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

鶴岡八幡宮の境內にあり、鐮倉及神奈川縣下の社寺及私人の寶物を保管陳列して、一般の縱覽に供するを主なる目的として建設されたもので、鐮倉町の經營にかゝり、昭和三年に開館された。鐵筋コンクリート校倉式の建築で六アール(百八十坪)の陳列室を有して居る。陳列品の種類は彫刻、繪畫、美術工藝品、古文書などであるが、佛敎に關する遺物が大部分を占めて居る。彫刻には佛像が多く、その時代は不安時代より室町時代に及び三十餘點あり、その中國寶が約二十點ある。國寶中で特に偉彩を放つて居るのは圓應寺の初江王坐像、俱生神像、稱名寺の愛染明王坐像及明月院の上杉重房像などである。初江王坐像は刀法極めて遒勁寫實的趣致に富める木像で、胎內に建長三年の墨書銘があり、鐮倉時代の代表的傑作である。

愛染明王像は金銅製高さ約一八糎(六寸)の小像であるが、鐮倉時代稀に見る精巧なる作で、臺座裏に永仁五年の銘が陰刻されて居る。

上杉重房像は高さ六八糎(二尺二寸五分)室町初期の作で、首部は一木造で玉眼を嵌入し、胴體は寄木で出來て居る。黑漆の烏帽子を戴き兩眼を細く開き、目尻長く上品なる髯を蓄へ、極めて寫實的で、その溫厚なる面貌に重房の人と爲りを偲ばしめるものがある。建長寺の北條時賴像と共に肖像彫刻の代表作である。

この外に圓覺寺の銅造阿彌陀兩脇侍像[國寶]はよく鐮倉時代の樣式を傳へ、所謂善光寺式一光三尊佛で中尊の蓮座に「文永八年十月十九日四十八日鑄奉、鑄物師賀茂延時」の鑄銘がある。

本館陳列の彫刻中の國寶を次に列舉する。

  • 木造不動明王像(藤原時代)極樂寺藏
  • 木造阿彌陀如來像(同)證菩提寺藏
  • 木造觀音勢至兩脇侍像(同)同
  • 木造釋迦如來像(鐮倉時代)極樂寺藏
  • 木造十大弟子像十躯(同)同
  • 木造初江王像(鐮倉時代)圓應寺藏
  • 木造倶生神像二躯(同)同
  • 木造地藏菩薩像(同)淨智寺藏
  • 木造地藏菩薩像(同)壽福寺藏
  • 木造阿彌陀如來像(同)寶城坊藏
  • 木造藥師如來像(同)同
  • 銅造阿彌陀如來及兩脇侍像三躯(同)圓覺寺藏
  • 愛染明王像(金屬製)(同)稱名寺藏
  • 銅造十一面觀音懸佛(同)長谷寺藏
  • 木造菩薩面(同)鶴岡八幡宮藏
  • 木造舞樂面蘭陵王散手二面(同)同

繪畫は五十餘點を有し、その中約二十點の國寶がある。鐮倉、室町時代のもの多く、國寶中光觸寺の頬燒阿彌陀緣起及光明寺の淨土五祖繪詞傳は何れも優秀なる作で、鐮倉時代の代表的繪卷物である。

美術工藝品では約四十點を有し、その中國寶が約十點あり。鶴岡八幡宮の國寶菊蒔繪硯箱及杏葉蒔繪平胡簶は鐮倉時代の優秀なる作である。

古文書は約五十點あり、その中に黃梅院の國寶華嚴塔勸緣疏がある。瑞鹿山圓覺禪師黃梅院重建華嚴塔勸綠小偈井敍と題し、奧に應募者の署名を列記した卷子本で、署名の下には花押の外、印を押捺せるものがある。

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