桂離宮

桂離宮
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

京阪電車桂の東北約1km、右京区桂にあり、桂橋際まで自動車の便があります。桂離宮はもと豊臣秀吉が正親町天皇の皇孫桂の宮のために造営したものです。殿舎林泉はすべて小堀遠州の意匠になり、御殿は広大な書院造で簡素ではありますが、仔細に見るとひとつひとつ周到な注意が加えられています。襖の金具に、鴨居上の欄間に、桃山一流の手法がよく現れ、御幸の間の床棚は複雑巧緻を極め、桂棚と称して茶人の間に聞えています。壁および襖の絵は多くが狩野一派の筆となり水墨画を用い、清楚淡雅の趣致を出しています。建築はその平面非常に変化に富み、屋根の高低もまた非常に要を得ています。南面東寄りに月見台があり、前方の庭池に臨んでいます。池中には島があり、橋を架け、舟を浮べ、御舟着を設けています。樹石蒼然と苔蒸し、配列変化の妙を極めています。その真行草の石盤など桂独特のもので世に典型とされています。

庭中に月波楼、松琴亭、笑意軒などの茶亭があります。桃山から江戸初期にかけてのもので、三者三様の特色を備え、一木の節、一刀の痕にもそれぞれの意が用いられています。さらに林泉に対する茶亭の位置はいかにも適切に置かれています。林泉は中央に広い池を抱いて八方表、すなわち裏がないといわれ、池畔からの眺めは比較的漠然としていますが、一度茶亭に入って内部からこれを望むと、深い軒蔭の彼方に林泉美の極致が展開されるものとなっています。

※底本:『日本案内記 近畿篇 上(初版)』昭和7年(1932年)発行

令和に見に行くなら

名称
桂離宮
かな
かつらりきゅう
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
京都府京都市西京区桂御園
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

京阪電車桂の東北約一粁、右京區桂にあり、桂橋際まで自動車の便がある。桂離宮はもと豐臣秀吉が正親町天皇の皇孫桂の宮のために造營したものである。殿舍林泉は悉く小堀遠州の意匠になり、御殿は廣大な書院造で簡素ではあるが、仔細に見ると一々周到な注意が加へられて居る。襖の金具に、鴨居上の欄閒に、桃山一流の手法がよく現はれ、御幸の閒の床棚は複雜巧緻を極め、桂棚と稱して茶人の閒に聞えて居る。壁及襖の繪は多く狩野一派の筆に成りて水墨畫を用ゐ、淸楚淡雅の趣致を出して居る。建築はその平面頗る變化に富み、屋根の高低また頗る要を得て居る。南面東寄りに月見臺があり、前方の庭池に臨んで居る。池中には島があり、橋を架し、舟を浮べ、御舟着を設けて居る。樹石蒼然と苔蒸し、配列變化の妙を極めて居る。その眞行草の石盤など桂獨特のもので世に典型とされて居る。

庭中に月波樓、松琴亭、笑意軒などの茶亭がある。桃山から江戶初期にかけてのもので、三者三樣の特色を備へ、一木の節、一刀の痕にもそれぞれの意が用ゐられてある。更に林泉に對する茶亭の位置は如何にも適當に置かれて居る。林泉は中央に廣い池を抱いて八方表、卽ち裏がないと云はれ、池畔よりの眺めは比較的漠然として居るが、一度茶亭に入つて內部からこれを望むと、深い軒蔭の彼方に林泉美の極致が展開されるのである。

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