伊豆・富士・静岡

いず・ふじ・しずおか

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伊豆・富士・静岡ガイド

国府津から西北に向へば、酒匂川の広き谷が左窓外に展開し稲田が連る。下曽我のあたり梅林が処々に見え、三月頃には白き花が見える。箱根火山は左方に聳え、山上にはその中央火山の二子山、駒ケ岳、神山、外輪山の明神ケ岳は順次左より右に並ぶ。その右方に傾斜する最も低き処は足柄峠の道にあたる。松田に至れば谷は狭くなり、酒匂川は左方に近づく。これより西に向ひ山北を過ぎ、狭谷の間に酒匂川を縫ひ六箇のトンネルを過ぎ、静岡県駿河国に入り駿河に着けば、左窓外に富士瓦斯紡績会社の工場が見える、これより西南に進み富士山の東裾野に出て御殿場に着く。こゝは海抜四四〇米、相模湾に入る酒匂川と駿河湾に注ぐ黄瀬川の分水界に位し、東海道本線中の最高駅である。

御殿場から南に向ひ黄瀬川の谷を下る、この谷は西には富士、愛鷹、東には箱根の火山が裾を曳き、地形学上裾合谷と称するものに属し、火山灰が堆積して畑地または森林をなして居る。富士山は近く右窓外に雄姿を現はし、飽かぬ眺めが得られる。汽車は黄瀬川の支流大沢川を右に見てこれに沿ひ、その黄瀬川に合する所にて黄瀬川の本流を渡り、箱根裏街道を横ぎり、左方箱根山の蘆ノ湖より灌漑用水として引いた深良川を渡る。それより右に愛鷹山の諸峰を望み裾野を経て三島に着く。

沼津を出て西に向ひ本街道に沿ひ駿河湾の北岸の平野を走る。右には愛鷹山が群峰を示し、左には海を隔てゝ伊豆の達磨山が見える。街道には延長一〇粁に亘り街村が続く。街道を横ぎつて原を過ぐれば右に浮島沼を見、左に海岸の松林を望んで鈴川に至り、これより富士の秀峰を裾野より見上げ、沼川、潤川を渡り梨畑を見て富士に着く。

富士を出て北力遥に入山瀬の製紙工場を望み、富士川の鉄橋にかゝる、橋は延長五七一米、河床に巨大の岩塊を見、下流に川口の三角洲を望む。川を渡れば南に転じて岩淵に着く、こゝはもと富士川を下る河船の集る処として栄え、今は木材の集散地である。これより西南に向い、右に山を負ふ海岸に出て蒲原由比を過ぎ、薩埵峠のトンネルをぬけ興津川を渡り、興津袖師を経て左方に三保松原を望み江尻に着く。

江尻を出て西南に向ひ平野の中を進み草薙を過ぎ、左方に久能山を望み静岡に着く。

※底本:『日本案内記 関東篇(初版)』昭和5年(1930年)発行

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