多良岳

多良嶽
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

多良岳は経ヶ岳(1,075m)、多良岳(982m)、五家原岳(1,057m)、烏帽子岳などからなる群山で長崎県藤津、東彼杵、北高来三郡にまたがり東に有明海西に大村湾を近くに望み、展望が非常に優れた山岳です。標高はあまり高くありませんが山頂付近には比較的原始林が多く、森林景観の優れた人気の山です。

多良群山は欠損した旧噴火口の外輪山で経ヶ岳、五家原岳、烏帽子岳などは外壁の山で、多良岳は中央火口丘であり、最高峰経ヶ岳は全く標式的な二重火山です。

有明海や大村湾、筑紫の平原から仰ぐ山姿は海中に聳立する孤峰のように、秀麗な山形を見せて雲仙とともに長崎半島の秀峰です。西側大村湾方面へは比較的急傾斜となっていますが、東側有明海へは緩い傾斜を長く曳いて美しい裾野となっています。

登山路は長崎本線湯江駅から登るもの、大村線竹松駅からのもの、北山麓の嬉野温泉から登るものがあります。

長崎本線湯江駅からの登山路は山頂まで約12km、途中境川の谷にある轟の滝までは2つの登路があります。ひとつは湯江から神津倉を経て直接境川谷に沿って轟の滝に出て、ひとつは駅から平原、または善住寺を経て尾根筋に沿って轟の滝へいったん降りてから登るものです。境川谷には大小十数の滝があり、渓流が美しく、なかでも轟の滝は最も壮観です。轟の滝から本谷に沿って、烏帽子岳の西山腹を登ります。おおむねススキ、木イチゴ、野イバラ等の山道で、金泉寺付近までは杉、ヒノキの数年生の植林帯です。湯江から全部徒歩となります。

大村線竹松駅からは多良岳金泉寺まで約15km、途中黒木まで12kmの間萱瀬川に沿って貸切自動車が通じています。途中久良原付近には樹齢百年に達するという杉の模範林があります。

黒木から頂上まで約3km、黒木集落から約0.5kmで次第に登りとなり、最初は杉の植林帯ですが小さな沢を渡るといっそう急坂となり、雑木林の密林に覆われたなかを、ジグザグに登ると、五家原岳と経ヶ岳との鞍部に出ます。付近はススキ等の草原で緑のスロープを拡げています。森林帯からぬけると展望が開け、大村湾や有明海の風光が一望でき、雲仙岳が有明海の上に浮かぶ景観は優れています。

ここから山腹をからんで約400mで金泉寺があります。神仏混淆の社寺で堂宇と籠堂とがあり、宿泊することができます。金泉寺から多良岳頂上まで約0.5km、最初はしばらく石段があり、ナラ、カシ等の原生林の間を急に登ると多良岳頂上に達します。

山頂の展望は標高の低い割合に非常に雄大で、多良岳経ヶ岳、五家原岳とも同様ですが、多良岳頂上はナラ林等が茂り、多少展望を欠いています。なかでも経ヶ岳は大村湾と有明海を同時に望める点が優れています。半島の脊梁だけに両海岸の静波を瞰下し、海中に浮かぶ雲仙岳の全山容は優美です。有明海を隔てて大牟田市方面や遠く阿蘇山等も望まれます。

多良の山々は標高は低いですが、いたるところに原始的景観があり、週末の登山に適した雄峰です。

※底本:『日本案内記 九州篇(六版)』昭和13年(1938年)発行
大村湾

令和に見に行くなら

名称
多良岳
かな
たらだけ
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
佐賀県藤津郡太良町多良
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

多良嶽は經ケ嶽(一、〇七五米)、多良嶽(九八二米)、五家原嶽(一、〇五七米)、烏帽子嶽などからなる群山で長崎縣藤津、東彼杵、北高來三郡に跨り東に有明海西に大村灣を近くに望み、展望甚だ勝れた山嶽である。標高は餘り高くないが山頂附近は比較的原始林多く、森林景觀の勝れた興味多い山である。

多良群山は缺損せる舊噴火口の外輪山で經ケ嶽、五家原嶽、烏帽子嶽などは外壁の山で、多良嶽は中央火口丘であり、最高峯經ケ嶽は全く標式的な二重火山である。

有明海や大村灣、筑紫の平原から仰ぐ山姿は海中に聳立する孤峯の如く、秀麗な山形を見せて雲仙と共に長崎半島の秀峯である。西側大村灣方面へは比較的急傾斜をなして居るが、東側有明海へは緩い傾斜を長く曳いて美しい裾野をなして居る。

登山路は長崎本線湯江驛からするもの、大村線竹松驛からするもの、北山麓の嬉野溫泉から登るものがある。

長崎本線湯江驛からの登山路は山頂まで約一二粁、途中境川の谷にある轟の瀧までは二つの登路がある。一つは湯江から神津倉を經て直接境川谷に沿うて轟の瀧に出で、一つは驛から平原、または善住寺を經て尾根筋に沿うて轟の瀧へ一旦降つて登るのである。境川谷には大小十數の瀧があり、溪流が美しく、就中轟の瀧は最も壯觀である。轟の瀧から本谷に沿うて、烏帽子嶽の西山腹を登る。槪ねすゝき、木いちご、野いばら等の山道で、金泉寺附近までは杉、檜の數年生の植林帶である。湯江から全部徒步に依る。

大村線竹松驛からは多良嶽金泉寺まで約一五粁、途中黑木まで一二粁の閒萱瀨川に沿うて貸切自動車が通ずる。途中久良原附近には樹齡百年に達すると云ふ杉の模範林がある。

黑木から頂上まで約三粁、黑木部落から約半粁で次第に登りとなり、最初は杉の植林帶であるが小さな澤を渡ると一層急坂となり、雜木林の密林に蔽はれた中を、ジツクザツクに登ると、五家原嶽と經ケ嶽との鞍部に出る。附近はすゝき等の草原で綠のスロープを擴げて居る。森林帶からぬけると展望が開け、大村灣や有明海の風光が一眸に入り、雲仙嶽が有明海の上に浮ぶ景觀は優れて居る。

こゝから山腹をからんで約四〇〇米で金泉寺がある。神佛混淆の社寺で堂宇と籠堂とがあり、宿泊することが出來る。金泉寺から多良嶽頂上まで約半粁、最初はしばらく石段があり、楢、樫等の原生林の閒を急に登ると多良嶽頂上に達する。

山頂の展望は標高の低い割合に頗る雄大で、多良嶽經ケ嶽、五家原嶽とも同樣であるが、多良嶽頂上は楢林等が茂り、多少展望を缺いて居る。就中經ケ嶽は大村灣と有明海を同時に望める點が優れて居る、半島の脊梁だけに兩海岸の靜波を瞰下し、海中に浮ぶ雲仙嶽の全山容は優美である。有明海を隔てゝ大牟田市方面や遠く阿蘇山等も望まれる。

多良の山々は標高は低いが、到る處原始的景觀を有し、週末の登山に適した雄峰である。

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