霧島山

霧島山
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

霧島山は鹿児島、宮崎の2県にわたる霧島火山帯の総称で、高千穂峰(1,574m)、韓国岳(1,670m)、新燃(1,421m)、獅子戸岳(1,428m)などを主峰として幾多の群峰からなっています。おおむねその山頂には火口跡をもち、円錐形の山容を見せています。また大浪池、御池、大幡池等をはじめ多くの火口湖が散在し、優美な裾野と高原とを持ち、山腹一帯にはモミ、ツガ等の針葉樹林が茂り、山頂付近にはいたるところミヤマキリシマの群落が多く、開花期の美観は、この山の特色のひとつです。

南麓一帯の地域にはいわゆる霧島温泉郷の多くの温泉があり、豊富な湧出量は日本でも著名です。これらの温泉を拠点としての登山は人気があるところです。すでに国立公園として指定され、交通は至便で、登山路の設備もよく、比較的容易に登ることができます。鹿児島湾の展望をはじめとして、山腹や山頂の展望は非常に雄大で、南国的情緒に富んだ景観をもっています。

普通霧島登山は天孫降臨の霊域として知られる高千穂峰に登るもので、その他霧島火山群中の最高峰韓国岳、または新燃山から高千穂峰への縦走などです。

登山路としては肥薩線牧園駅から霧島温泉を経て登るもの、日豊本線霧島神宮駅から霧島神宮を経て登るもの、吉都線高原から登るものなど三方面ありますが、普通霧島温泉を拠点とするのが最も便利で、牧園駅からも霧島神宮駅からも霧島温泉まで自動車約40分のドライブです。

霧島温泉から韓国岳までは約8km、2時間半~3時間行程であり、高千穂峰へは12kmで、4時間行程です。

韓国岳登山路は温泉から急坂を登ると登山路に出、これを約10分程登ると、左に大浪池、右に新湯、高千穂峰への追分です。

左へ道をとり松林を行くと、新燃山が望まれます。熱湯から十字路に出て、左は大浪山腹を蝦野へ行く道です。森林の中を大浪池火口壁までは約40分です。この間はほとんど眺望がありません。別に栄之尾温泉からの登山路がこの火口壁で合流します。いずれの登山路も大浪池までは温泉客の散歩路で下駄穿きでも登ることができます。

大浪池は標式的な火山湖で、直径約1,000m、火口壁の最も高いところは水面から173mに達します。水深は10m程度です。モミ、ツガ等の鈍葉樹とブナ、ミズナラ、イヌツゲ等の混生する原生林がその内壁の急崖を飾って、幽幻な点では九州においてほかに類例がありません。秋の紅葉、春のツツジ、冬の霧氷など四季とりどりに、異彩を放っています。韓国岳の西南麓一帯に茂る針葉樹と、幽幻な大浪池の対照は南国の山と思えない景観です。大浪池から火口壁の東北側から韓国岳との鞍部へいったん降りると、韓国岳頂上へはほとんど迷路もなく約1時間で達します。霧島火山群の中央に位置し、南壁の三角点は1,700m、霧島の最高峰で巨大なる火口跡があります。火口の直径は900m、深さ300mに達しています。

眺望は南九州第一の高峰だけに非常に雄大で、遠く太平洋中の屋久島、宮ノ浦岳まで望まれ、間近に鹿児島湾、桜島、開聞岳、高隈連山をはじめ、北には遠く市房山方面が望まれます。

韓国岳から新燃、中岳を経て高千穂峰への縦走は足に自信のある人には面白いコースです。

高千穂峰登山、普通霧島山登山は単に高千穂峰へ登るのが最も一般的です。

温泉から山頂まで約12km、登路は極めて容易で、4時間行程です。温泉から杉林を登ると登山道に出ます。左へ新湯、大浪池、韓国岳への道が分かれます。しばらく山腹をからんで進むと湯之野温泉へいったん下って霧島川の渓流を渡ります。ここから火防線状に森林を切り開いた草地の間の登山道を登ります。左に新燃山を仰ぎ次第に高原帯に出ます。この高原帯で初めて高千穂の峰と御鉢が溶岩礫の灰褐色の山肌を現します。間もなく河原の茶屋に出ます。ここで霧島神宮からの道と合流します。河原の茶屋には秩父宮殿下御登山記念碑があります。

河原の茶屋から高千穂峰頂上まで約1時間半行程です。灌木帯を20分程登り、熔岩礫の急坂を登ると御鉢の火口壁に出ます。この火口壁に沿って進む、この間を馬の背越といいます。火口の深さ約240m、直径500mにおよび、わずかに底部に硫気孔があり火山の名残を留めています。馬の背越から急な草付の斜面を登ると高千穂峰山頂に達します。この付近は特にツツジが多いところです。

山頂には天の逆鉾が木柵の中に錆びて立っています。山頂の展望は非常に雄大で、霧島火山群の全容から大隅、薩摩の両半島、桜島、開聞岳などを初め太平洋の際涯なき展望を満喫できます。山頂から西へ霧島東神社に降り狭野を経て高原駅へ降るのも人気があります。高原まで14kmですが、霧島東神社から高原駅まで自動車があります。

また山頂から降りて河原の茶屋で道を左にとり霧島神宮へは約8km、約2時間行程です。この間の原生林の森林景観は非常に原始的で、九州の山岳としては稀に見る幽邃味を持っています。

普通霧島神宮駅からの登山者は霧島神宮から登り、霧島温泉へ降るのが順路です。

※底本:『日本案内記 九州篇(六版)』昭和13年(1938年)発行
霧島山 霧島山の桜

令和に見に行くなら

名称
霧島山
かな
きりしまやま
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
鹿児島県、宮崎県
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

霧島山は鹿兒島、宮崎の二縣に亙る霧島火山帶の總稱で、高千穗峯(一、五七四米)、韓國嶽(一、六七〇米)、新燃(一、四二一米)、獅子戶嶽(一、四二八米)などを主峯として幾多の群峯から成つて居る。槪ねその山頂には火口址を有し、圓錐形の山容を聳えて居る。また大浪池、御池、大幡池等を初め數多の火口湖が散在し、優美な裾野と高原とを持ち、山腹一帶には樅、栂等の針葉樹林が茂り、山頂附近には到る處みやまきりしまの群落が多く、開花期の美觀は、この山の特色の一である。

南麓一帶の地域には所謂霧島溫泉鄕の多くの溫泉があり、豐富な湧出量は我が國でも著名である。これ等の溫泉を根據地としての登山は興味が多い。既に國立公園として指定され、交通は至便で、登山路の設備もよく、比較的容易に登ることが出來る。鹿兒島灣の展望を初めとして、山腹や山頂の展望は頗る雄大で、南國的情調に富んだ景觀をもつて居る。

普通霧島登山は天孫降臨の靈域として知らるゝ高千穗峯に登るもので、その他霧島火山群中の最高峯韓國嶽、または新燃山から高千穗峯への縱走などである。

登山路としては肥薩線牧園驛から霧島溫泉を經て登るもの、日豐本線霧島神宮驛から霧島神宮を經て登るもの、吉都線高原から登るものなど三方面あるが、普通霧島溫泉を根據地とするが最も便利で、牧園驛からも霧島神宮驛からも霧島溫泉まで自動車約四十分のドライヴである。

霧島溫泉から韓國嶽までは約八粁、二時閒半乃至三時閒行程であり、高千穗峯へは一二粁で、四時閒行程である。

韓國嶽登山路は溫泉から急坂を登ると登山路に出るこれを約十分程登ると、左大浪池、右新湯、高千穗峯への追分である。

左へ道をとり松林を行くと、新燃山が望まれる。熱湯からの十字路に出て、左は大浪山腹を蝦野への道である。森林の中を大浪池火口壁までは約四十分である。この閒は殆んど眺望がない。別に榮之尾溫泉からの登山路がこの火口壁で合する。何れの登山路も大浪池までは溫泉客の散步路で下駄穿きでも登ることが出來る。

大浪池は標式的な火山湖で、直徑約一、〇〇〇米、火口壁の最も高い處は水面から一七三米に達する。水深は十米程度である。樅、栂等の鈍葉樹とぶな、水楢、いぬつげ等の混生する原生林がその內壁の急崖を飾つて、幽幻な點では九州に於て他に類例がない。秋の紅葉、春のつゝじ、冬の霧氷など四季とりどりに、異彩を放つて居る。韓國嶽の西南麓一帶に茂る針葉樹と、幽幻な大浪池の對照は南國の山と思へぬ景觀である。大浪池から火口壁の東北側から韓國嶽との鞍部へ一旦降ると、韓國嶽頂上へは殆んど迷路もなく約一時閒で達する。霧島火山群の中央に位し、南壁の三角點は一、七〇〇米、霧島の最高峯で巨大なる火口址がある。火口の直徑は九〇〇米、深さ三〇〇米に達して居る。

眺望は南九州第一の高峯だけに頗る雄大で、遠く太平洋中の屋久島、宮ノ浦嶽まで望まれ、閒近に鹿兒島灣、櫻島、開聞嶽、高隈連山を初め、北には遠く市房山方面が望まれる。

韓國嶽から新燃、中嶽を經て高千穗峯への縱走は足に自信ある人には興味あるコースである。

高千穗峯登山、普通霧島山登山は單に高千穗峯へ登るのが最も一般的である。

溫泉から山頂まで約一二粁、登路極めて容易で、四時閒行程である。溫泉から杉林を登ると登山道に出る。左へ新湯、大浪池、韓國嶽への道が岐れる。しばらく山腹をからんで進むと湯之野溫泉へ一旦下つて霧島川の溪流を渡る、こゝから火防線狀に森林を切開いた草地の閒の登山道を登る。左に新燃山を仰ぎ次第に高原帶に出る。この高原帶で初めて高千穗の峯と御鉢が溶岩礫の灰褐色の山肌を表す。閒もなく河原の茶屋に出る、こゝで霧島神宮からの道と合する。河原の茶屋には秩父宮殿下御登山記念碑がある。

河原の茶屋から高千穗峯頂上まで約一時閒半行程である。灌木帶を二十分程登り、熔岩礫の急坂を登ると御鉢の火口壁に出る。この火口壁に沿うて進む、この閒を馬の脊越と云ふ。火口の深さ約二四〇米、直徑五〇〇米に及び、僅に底部に硫氣孔があり火山の名殘をとゞめて居る。馬の脊越から急な草付の斜面を登ると高千穗峯山頂に達する。この附近は特につゝじが多い。

山頂には天の逆鉾が木柵の中に錆びて立つて居る。山頂の展望は頗る雄大で、霧島火山群の全容から大隅、薩摩の兩半島、櫻島、開聞嶽などを初め太平洋の際涯なき展望を滿喫出來る。山頂から西へ霧島東神社に降り狹野を經て高原驛へ降るのも興味がある。高原まで一四粁であるが、霧島東神社から高原驛まで自動車がある。

また山頂から降つて河原の茶屋で道を左にとり霧島神宮へは約八粁約二時閒行程である。この閒の原生林の森林景觀は頗る原始的で、九州の山嶽としては稀に見る幽邃味を持つて居る。

普通霧島神宮驛からの登山者は霧島神宮から登り、霧島溫泉へ降るのが順路である。

霧島・えびののみどころ