後方羊蹄山の高山植物帯

後方羊蹄山の高山植物帶[指定天然記念物]
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

比羅夫駅の東約4kmで、山麓半月湖に達します。山は虻田郡に属し、湖畔にはイタヤカエデ、ミズナラ、ウダイカンバ、オヒョウ等の広葉喬木が密生していますが、ここから登るに従って針葉樹と広葉樹の混合林となり、四合目(約750m)のあたりに達すると、イタヤカエデ、ウダイカンバ等の老樹とともにエゾマツの大樹が現れ、非常に美観を呈します。さらに登って約1,200m(六合目)に至れば、ほとんど喬木はなくなり、ただエゾノダケカンバが地をはう景観があるのみです。なお約150m登れば、ハイマツが3mほどのミヤマナナカマド、ミネカエデ、ダケカンバ等と混生しているのが見られます。ハイマツは次第に加わり、七合目(1,500m)のあたりでは、純然としたハイマツ帯となります。そこからネマガリダケ、ミヤマエンレイソウ、マイヅルソウ、ゴゼンタチバナ、ミヤマカタバミ、コケモモ等の高山性草本類が多くなり、電光坂と呼ばれる急坂のあたりは灌木帯としての高山植物帯の景観が大いに広がっています。さらに登って山頂に近い高度約1,500mの花畑は夏には非常な美観となります。山頂の火口にはキクバクハガタ、ホソバオンタデ、イワギキョウ、イワブクロ、ミヤマキンバイ等の乾生高山植物を見、エゾノフジアザミのような固有のものもあり、自然の花園に咲き競います。

要するに羊蹄山の高山植物分布区域は極めて広く、そのため種類も多く半月湖畔から山頂にわたって261種を数え、またその量の豊富な点は信州飛騨の高山も到底およばないところで、日本の高山植物の宝庫と称するのも過言ではないでしょう。指定天然記念物となっているところは山麓から無立木地に至る登山道の左右各455m弱と無立木地一円です。

※底本:『日本案内記 北海道篇(五版)』昭和11年(1936年)発行

令和に見に行くなら

名称
後方羊蹄山の高山植物帯
かな
しりべしやまのこうざんしょくぶつたい
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
北海道虻田郡ニセコ町、倶知安町ほか
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

比羅夫驛の東約四粁にして、山麓半月湖に達する。山は虻田郡に屬し、湖畔には「いたやかへで」、「みづなら」、「うだいかんば」、「おひやう」等の濶葉喬木密生して居るが、これより登るに從つて針濶混合林をなし、四合目(約七五〇米)の邊に達すると、「いたやかへで」、「うだいかんば」等の老樹と共に「えぞまつ」の大樹現はれ、甚だ美觀を呈する。更に登つて約一、二〇〇米(六合目)に至れば、漸く喬木を缺き、唯「えぞの嶽樺」の臥して崎形を呈するのみである。尙約一五〇米登れば、偃松が丈餘に達せざる「みやまなゝかまど」、「みねかへで」、嶽樺等と混生するを見る。偃松は次第に加はり、七合目(一、五〇〇米)の邊では、純然たる偃松帶となる。その槪下には「ねまがりだけ」、「みやまえんれいさう」、「まひづるさう」、「ごぜんたちばな」、「みやまかたばみ」、「こけもゝ」等の高山性草本類漸く多く、電光坂と呼ばれる急坂の邊は灌木帶としての高山植物帶を遺憾なく示して居る。尙登つて山頂に近い高度約一、五〇〇米の御花畑は夏時非常な美觀である。山頂の火口には「きくばくはがた」、「ほそばおんたで」、「いはぎきやう」、「いはぶくろ」、「みやまきんばい」等の乾生高山植物を見、「えぞのふじあざみ」の如き固有のものもあり、自然の花園に咲き競ふ。

要するに羊蹄山の高山植物分布區域は極めて廣く、隨つてその種類も多くして半月湖畔から山頂に亙つて二百六十一種を數へ且その量の豐富なる點は到底信飛の高山も及ばざるべく、我が國高山植物の一寶庫と稱するも過言でなからう。指定天然記念物となつて居るところは山麓から無立木地に至る登山道の左右各四五五米弱及無立木地一圓である。

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