日光白根山
昭和初期のガイド文
男体山の北西に位置し、群馬県と栃木県の県境にまたがる二重式火山で、関東北部の最高峰として知られています。東側にある前白根山は外輪山の一部であり、その西麓に広がる五色沼は火口原湖として有名です。一方、奥白根山は中央火口丘で、複数の峰に分かれています。大火口はありませんが、小さな火口が多く、かつては活発に活動していたこともあります。最高地点は標高2,577mに達し、五色沼は標高2,174mの高地にあります。登山ルートは東北側の湯元温泉から、西北側の上州片品方面までの2ルートがありますが、主に湯元温泉から登るのが一般的です。湯元温泉から白根山頂までは約8kmで、登山時間はおおよそ3~4時間です。温泉から西へ金精峠に向かう道を約800m進むと白根山道の分岐点があります。そこを左に折れ、白根沢に沿って約2kmは緩やかな登りが続きます。この区間は大きな栂や樅の疎林が立ち並び、日光の奥山らしい景観が楽しめます。さらに進むと、白根沢が次第に狭まり、急なガレ沢の登りに変わります。この地点から上には水場がないため、水の用意をしておく必要があります。沢の行き詰まる場所で右手の尾根に移動し、前白根山を目指します。前白根山への道は木の根が露出しており、雨の後は滑りやすいため注意が必要です。登りが進むにつれ、黒木立が減少し、岳樺の白い木肌が現れます。さらに登ると森林限界を越え、小さなミヤマハンノキや草原が広がり、外山と前白根(標高2,377m)の鞍部に出ます。そこから尾根を少し西に進むと、白根山の黒い岩肌が西にそびえ、山麓には火口湖である五色沼が青く輝く水面を見せています。五色沼と白根山を右に見ながら尾根を一旦西南に下ります。尾根の草原ではミヤマリンドウ、タケアザミ、タチフウロなどの美しい花々を見ることができます。その間を約300m進むと右手に岳樺やハンノキの林があり、草原に出ます。この尾根は火口壁状になっており、白根の本峰を回り込む形で草原が谷のように五色沼へ向かって傾斜しています。草原から山頂までは高さ約300mの急な登りが続き、特にミヤマハンノキなどの低木が多く見られます。
山頂には白根山神社(旧白根権現)の小祠があり、奇岩が乱立してその間を草本が彩っています。ここではコケモモ、スギゴケ、イワカガミなどが多く見られ、ハナコケも豊富です。山腹ではシラネアオイやシラネニンジンなど、この山特有の植物が観察できます。山頂からの展望は雄大で、東側には中禅寺湖を見下ろし、その北にそびえる男体山や戦場ヶ原、大真名子、小真名子、太郎山、温泉岳へと続く山々が広がります。北側には金精峠を越えて鬼怒沼山、帝釈山、田代山、さらに会津駒ヶ岳から西北の燧ヶ岳、至仏岳、尾瀬沼方面までを見渡せます。西側には片品川沿いの谷を隔てて武尊山が近くに望め、その先には上越国境の山々が連なります。また、南西には草津白根山や浅間山、榛名山、赤城山が、南側には富士山や秩父連峰が見えます。眼下には関東平野が東南方向へ果てしなく広がっています。山頂から西北に下り、「血ノ池地獄」や「遠島居」を経由して白根温泉まで約10kmの道があります。さらに、血ノ池地獄から右手に折れて「笑窪」を通り、幽玄な菅沼を眺めながら丸沼へ出ることもできます。丸沼からはバスがあり、鎌田追貝を経て上越南線の沼田駅へ通じています。
令和に見に行くなら
- 名称
- 日光白根山
- かな
- にっこうしらねさん
- 種別
- 見所・観光
- 状態
- 現存し見学できる
- 住所
- 栃木県日光市
- 参照
- 参考サイト(外部リンク)
日本案内記原文
男體山の西北、群馬、栃木二縣の境上に位する二重式火山で關東北部第一の高山として知られて居る。東方の前白根山は外輪山の一部でその西麓にある五色沼は火口原湖である。奥白根山は中央火口丘で數峰に分れ、大火口を存して居ないが、小火口が甚だ多く、屢々活動したことがある。その最高點は二、五七七米に達する。五色沼は水面の海拔二、一七四米で、その高處に位することによつて知られて居る。登山路は東北は湯元溫泉から、西北は上州片品方面からの二途あるが主に湯元から登る。湯元から白根山頂まで約八粁で、三時間乃至四時間で登られる。溫泉から西へ金精峠への道を八〇〇米ばかり行くと、白根山道の追分がある。それを左折して白根澤に沿うて約二粁は緩やかな登りである。大きな栂、樅の疎林の立つ熊笹帶は日光の奥山らしく、はんのきの密林を行くと、白根澤は次第に狹まつて、急なガレ澤の登りになる。この澤から上には水がないから、こゝで用意しなければならない。澤の行詰る處で右手の尾根に移り、前白根山へ登つて行く、前白根山への登りは、木の根の露出した可なり急な道で、雨後などには登り難い。少しく左手へからみ乍ら登つて行くと、黑木立が次第に少くなつて、岳樺の白い木肌が現はれ、その林もやがて盡きて、小さなみやまはんのきと草原になり、外山と前白根(二、三七七米)の鞍部に出る。そこから前白根の尾根を僅か西に進むと、白根山が西に黑い岩肌を屹立して、その山足の落ちた處に、火口湖五色沼が眼下に靑い水を湛へて居る。五色沼と白根山を右に見て、一旦西南の尾根に下る。尾根の草原にはみやまりんどう、だけあざみ、たちふうろなどが美しい。その間を三〇〇米程平に行くと、右手へ岳樺や、はんのきの林を下つて草原に出る、この尾根は火口壁狀に白根の本峯を廻つて、草原は谷の樣に五色沼へ傾斜して居る。その草原から頂上までは殆ど一直線に、高さで三〇〇米程は灌木帶の急な登りで、殊にみやまはんのきなどが多い。
頂上には白根山神社(舊白根權現)の小祠があり、奇岩亂立し、その間を草本で飾つて居る。こけもゝ、すぎごけ、いはかがみなど多く、はなこけも多い、山腹にはしらねあふひ、しらねにんじんなどこの山に特有と云はれる植物が見られる。山頂の展望は雄大で東に中禪寺湖を俯瞰し、湖の北に男體山の全山容が間近に聳え、戰場ケ原を麓にめぐらし、大眞名子、小眞名子、太郞山、溫泉岳へ連る山々が一目に入る。北には金精峠から鬼怒沼山、帝釋山、田代山へと眞北に續く峯々、やゝその西に會津駒ケ岳から西北の燧岳、至佛岳尾瀨沼方面を始めとして、黑木立に蔽はれる重疊たる奥日光及奥上州の諸山が一眸に集る。西は片品川沿ひの谷を隔てゝ、武尊山を間近に望み、遠く上越國境の山々、やゝ西南に草津白根から淺間、榛名、赤城の諸山が指摘され、南は富士、秩父などを望んで、眼下に關東平野が東南へ際限なく廣がつて居る。頂上から道を西北に下つて血ノ池地獄、遠島居を經て白根溫泉まで約一〇粁である。尙血ノ池地獄で右へ折れ、笑窪を經て、幽邃な菅沼を見、丸沼に出る。丸沼からは自動車が鎌田追貝を經て上越南線沼田へ通ずる。