飯坂温泉

飯坂、湯野溫泉
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

福島駅北2km、伊達駅から西3.5km、ともに電車、自動車を通じます。飯坂と湯野は摺上川の清流を隔て、浴楼軒を列ねて相対し、ひとつの温泉郷を成しています。飯坂には鯖湖湯、透達湯を中心とする湯沢と、十綱橋畔の波来湯筋、滝野湯筋、赤川筋と別に郊外に天王寺温泉があり、湯野は十綱橋畔一帯のほかに摺上川の上流約2kmに穴原温泉の一区があります。

温泉は大納言師氏の歌に

世とともになげかしき身をみちのくの さばこの御湯といはせてしがな

と詠んでいるのを見ると、900年前すでに歌枕のひとつとされていたものです。この温泉郷の特色は滝野湯筋および湯野の旅館が摺上川の川岸から上へ上へと寸地を求めて建て列ねられていることで、清流に影を映じてひとつの画景を形成しています。これを対岸から望むと皆4層、5層の高楼ですが、前から見れば普通の平屋または2階建となっています。それで内部の構造も4階から3階、3階から2階へと下りるようにできています。

この飯坂、湯野を通じる十綱橋は今は昔の釣橋の面影はなくなりましたが、夏の夕の情景は京の四条橋付近の雑沓に似ています。

穴原と天王寺は川を挟んで相対し、小倉山の翠を背負い風光美しく、夏季ここに涼を求めるものが少なくありません。ここから上流6kmばかり、白兎、滝野のあたりは摺上川の風光が特に勝色を呈しています。温泉は多く塩類泉に属し、なかには硫黄泉、単純泉もあります。胃腸病、皮膚病、婦人病などに効くといいます。

旅館は飯坂、湯野を合わせて現在50軒あまりあり、その主なものは滝野湯筋に花水館、角屋、枡屋、赤川筋に泉州閣、金滝、赤川屋、飯坂ホテル、湯野に亀屋、稲荷屋、佐藤屋、湯野屋、泉屋、橋本屋、新松葉屋、穴原に泉屋、古川屋、天王寺におきなや、立花屋、湯沢に中村屋、油屋、堀江屋、波来湯筋に田丸屋、花屋、蔦屋、平野屋。

※底本:『日本案内記 東北篇(初版)』昭和4年(1929年)発行
飯坂湯野温泉

令和に見に行くなら

名称
飯坂温泉
かな
いいざかおんせん
種別
温泉
状態
現存し見学できる
住所
福島県福島市飯坂町
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

福島驛北二粁、伊達驛から西三粁半、共に電車、自動車を通ずる。飯坂と湯野は摺上川の淸流を隔て、浴樓軒を列ねて相對し、一の溫泉鄕を成して居る。飯坂には鯖湖湯、透達湯を中心とする湯澤と、十綱橋畔の波來湯筋、瀧野湯筋、赤川筋と別に郊外に天王寺溫泉があり、湯野は十綱橋畔一帶の外に摺上川の上流約二粁に穴原溫泉の一區がある。

溫泉は大納言師氏の歌に

世と共になげかしき身をみちのくの さばこの御湯といはせてしがな

と詠んで居るのを見ると、九百年前既に歌枕の一つとされて居たものである。この溫泉鄕の一特色は瀧野湯筋及湯野の旅館が摺上川の川岸から上へ上へと寸地を求めて建て列ねられて居ることで、淸流に影を映じて一の畫景を形成して居る。これを對岸から望むと皆四層、五層の高樓であるが、前から見れば普通の平屋または二階建となつて居る。それで內部の構造も四階から三階、三階から二階へと下りるやうに出來て居る。

この飯坂、湯野を通ずる十綱橋は今は昔の釣橋の面影はなくなつたが、夏の夕の情景は京の四條橋附近の雜沓に似て居る。

穴原と天王寺は川を挾んで相對し、小倉山の翠を負うて風光美しく、夏季こゝに涼を求めるものが少くない。こゝから上流六粁ばかり、白兎、瀧野のあたりは摺上川の風光特に勝色を呈して居る。溫泉は多く鹽類泉に屬し、中には硫黃泉、單純泉もある、胃腸病、皮膚病、婦人病などに效くと云ふ。

旅館は飯坂、湯野を合せて現在五十餘軒あり、その主なるものは(瀧野湯筋)花水館、角屋、枡屋、(赤川筋)泉州閣、金瀧、赤川屋、飯坂ホテル、(湯野)龜屋、稻荷屋、佐藤屋、湯野屋、泉屋、橋本屋、新松葉屋、(穴原)泉屋、古川屋、(天王寺)おきなや、立花屋、(湯澤)中村屋、油屋、堀江屋、(波來湯筋)田丸屋、花屋、蔦屋、平野屋。

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