面河渓

面河溪[指定名勝]
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

松山駅の南70km面河村大味川にあり、栃原まで60kmの間自動車の便があります。仁淀川の上流面河川の渓谷で、石鎚山の南麓に位置し、堅緻で粗い節理を有する石英閃緑岩からなり、渓間いたるところに断崖が壁立し、危岩が聳峙し、岩石美に富んでいます。しかも満山原始に近い大森林をもって覆われ、渓流水清く、流急にしてところどころに瀑布となり、深潭碧淵その間に交錯して景観の変化に富み、稀に見る峡谷美を呈します。関門、亀腹、兜岩、鎧岩等の絶壁と御来光瀑、霧迫瀑、熊淵、紅葉淵等の瀑布淵潭は局部的景勝の際立ったもので、新緑および紅葉の季節が最も探勝に適します。

面河渓の探勝は松山または道後から日帰りもできますが、関門または亀腹に一泊して充分にその景趣を味わうとよいでしょう。自動車は現在栃原までですが年々奥に向かって、延長される予定です。栃原から徒歩約8kmで面河最初の絶景関門に達します。

狭長で深く切り立ったほとんど水平に並ぶ石英粗面岩の板状節理と、これを縦横に切る裂罅とで、両岸に約70mの絶壁を造ったのがその関門です。絶壁は黒黝色を呈し、老木日光を遮り、昼なお暗く、夏なお寒く、しかもその崕下を流れる水は透明で川底の小石も数えられるほどです。

その関門に架する空船橋を渡って左岸に沿って登り、鉢巻岩を河中に見下して進むと鉄砲石川が面河川に流れ入るところを想思渓といいます。関門から約1kmで五色河原、亀腹の勝あり、渓中絶勝のひとつに数えられます。五色河原のあるあたりは両岸やや開けて流れは緩やかで、岩は白く、水は碧く、苔は黒く、藻は緑に、紅楓赤く燃えて五色河原をなすものです。亀腹は大断崖で高さ約100m、幅約200m、名にし負う亀腹の奇観を呈し、雄大さがあります。

亀腹から本流探勝と鉄砲石谷探勝の二途に分かれます。亀腹の下手から本流を横切って鉄砲石谷に越える途中パノラマ台と称する屹立する高丘があり、その頂点からは石鎚山の天狗ヶ鼻が仰がれます。下って鉄砲石川の流に近づく頃いわゆる鉄砲石があります。種ヶ島の短銃型で、白色勝の石英粗面岩の板状節理の破片です。この渓谷には紅葉淵、櫃の底、紅葉石、御月岩、兜岩、鎧岩、布引滝、閻魔淵等約2kmの間に連なって続いています。兜岩鎧岩は形によって名づけられたひとつの岩で、下が兜、上が鎧、両者を通じて幅約80m、高さ約70mの大岩です。

亀腹から面河本流を進むとすぐに鶴ヶ背橋を渡る、橋上からの眺望甚佳、勝中勝ともいうべきです。橋を渡れば蓬萊渓、やがて紅葉河原で紅葉の勝地です。ここから上流には雄熊淵、雌熊淵、九天竜、虎ヶ滝等1kmあまりの間にあり、普通の探勝者はそこから引返すのが例ですが、この上流の奥には霧迫滝、久孝滝、久武の滝、阿弥陀ヶ淵、自竜滝、孔雀の瀞、七つ釜、犬吠滝、魚止滝等の景勝地があり、御来光滝を経て石鎚山頂に至ります。

※底本:『日本案内記 中国・四国篇(初版)』昭和9年(1934年)発行
面河渓

令和に見に行くなら

名称
面河渓
かな
おもごけい
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
愛媛県上浮穴郡久万高原町若山石鎚国定公園内
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

松山驛の南方七〇粁面河村大味川にあり、栃原まで六〇粁の閒自動車の便がある。仁淀川の上流面河川の溪谷にして、石鎚山の南麓に位し、堅緻にして粗き節理を有する石英閃綠岩より成り、溪閒到る處に斷崖壁立し、危岩聳峙し、岩石美に富む。しかも滿山原始に近き大森林を以て蔽はれ、溪流水淸く、流急にして所々に瀑布をなし、深潭碧淵その閒に交錯して景觀の變化に富み、稀に見る峽谷美を呈する。關門、龜腹、兜岩、鎧岩等の絕壁と御來光瀑、霧迫瀑、熊淵、紅葉淵等の瀑布淵潭は局部的景勝の尤なるもので、新綠及紅葉季が最探勝に値する。

面河溪の探勝は松山または道後から日歸りも出來るが、關門または龜腹に一泊して充分にその景趣を味ふがよい。自動車は今栃原までゝあるが年々奧に向つて、延長せらるゝ筈である。栃原から徒步約八粁にして面河最初の絕景關門に達する。

狹長で深く切り立つた殆ど水平に竝ぶ石英粗面岩の板狀節理と、これを縱橫に切る裂罅とで、兩岸に約七〇米の絕壁を造つたのがその關門である。絕壁は黑黝色を呈し、老木日光を遮り、晝尙暗く、夏尙寒く、しかもその崕下を流るゝ水は透明底の小石も數へらるゝばかりである。

その關門に架する空船橋を渡つて左岸に沿うて登り、鉢卷岩を河中に見下しゝ進むと鐵砲石川が面河川に流れ入るところを想思溪と云ふ。關門から約一粁にして五色河原、龜腹の勝あり、溪中絕勝の一に數へられる。五色河原のある邊は兩岸稍々開けて流緩く、岩は白く、水は碧く、苔は黑く、藻は綠に、紅楓赤く燃えて五色河原をなすのである。龜腹は大斷崖で高さ約一〇〇米、幅約二〇〇米、名にし負ふ龜腹の奇觀を呈し、雄大と云ふ感を與へられる。

龜腹から本流探勝と鐵砲石谷探勝の二途に分れる。龜腹の下手から本流を橫切りて鐵砲石谷に越ゆる途中パノラマ臺と稱する屹立せる高丘があり、その頂點からは石鎚山の天狗ケ鼻が仰がれる。下つて鐵砲石川の流に近づく頃いはゆる鐵砲石がある、種ケ島の短銃型で、白色勝の石英粗面岩の板狀節理の破片である。この溪谷には紅葉淵、櫃の底、紅葉石、御月岩、兜岩、鎧岩、布引瀧、閻魔淵等約二粁の閒に連り續いて居る。兜岩鎧岩は形によつて名づけられた一つの岩で、下が兜、上が鎧、兩者を通じて幅約八〇米、高さ約七〇米の大岩である。

龜腹から面河本流を進むとすぐに鶴ケ背橋を渡る、橋上からの眺望甚佳、勝中勝とも云ふべきである。橋を渡れば蓬萊溪、やがて紅葉河原で紅葉の勝地である。これより上流には雄熊淵、雌熊淵、九天龍、虎ケ瀧等一粁餘の閒にあり、普通の探勝者はそこから引返すのが例であるが、この上流の奧には霧迫瀧、久孝瀧、久武の瀧、阿彌陀ケ淵、自龍瀧、孔雀の瀞、七つ釜、犬吠瀧、魚止瀧等の勝あり、御來光瀧を經て石鎚山頂に達せられる。

久万高原のみどころ