道成寺

道成寺[天臺宗]
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

道成寺駅の北約0.5km、矢田村鐘巻にあります。天音山千手院と号し、丘上景勝の地を占めています。

寺伝によると文武天皇の勅願によって紀大臣道成がこの寺を創建し、義淵僧正を開山にしたといいます。僧安珍の物語により、古来安珍清姫の寺としてその名を世に知られています。現存の諸堂の古建築には本堂および仁王門があり、寺宝には道成寺縁起をはじめ、貴重な古仏像を多く蔵しています。

楼門[国宝] 勾配急な石段を登り詰めたところに建っています。三間一戸重層の仁王門です。バランスがよく整い、手法もまた雄健にして室町時代の特徴を示しています。

本堂[国宝] 楼門の奥、境内の中央に南面して建っています。七間五面、前面に三聞の向拝があり、単層屋根入母屋造本瓦葺の建築にして、規模雄大、手法はほとんど鎌倉時代のもののようですが、屋根の鬼瓦に「天授四年戊午季春日造」の刻銘があり、恐らく室町時代に再建されたものでしょう。内部は内外および後陣の3区に分かれ、内陣の須弥壇上には厨子3基あり、中央に本尊千手観音の巨像を、左右には日光および月光両菩薩の立像[国宝]を安置しています。なお須弥壇上には平安時代の弘仁の頃(810~824年)の木造四天王像[国宝]を安置しています。

三重塔 本堂の前面、向かって右方にあり、方三間、本瓦葺素木造、江戸時代の建築で、上層には扇棰を使用し、桝組には和様三手先に竜頭形の尾棰を加えています。また蟇股内には鳥獣人物の彫刻を嵌装し、重厚な装飾を施しています。

  • 宝物
  • 道成寺縁起[国宝] 2巻 紙本著色、能や歌舞伎などに仕組まれて名高い道成寺鐘捲の物語を絵巻にしたもので、現存道成寺絵巻中最も古いものです。絵は土佐光重の筆と伝え、絵の中に詞を入れて説明してあるので非常に活動的です。巻末に足利義昭の花押および天正元年(1573年)の奥書があるから、天正以前のものであることは明らかで、恐らく室町時代中期以後の作でしょう。
  • 毘沙門天立像[国宝] 2体 木造、ひとつは兜跋毘沙門天で高さ296cm、相貌雄大にして刀法の遒勁なことはよく平安時代初期の特徴を発揮しています。他の1体は高さ約189cm、これも非常に優秀な作ですが、時代は少し降り藤原時代のものでしょう。
  • 十一面観音立像[国宝] 1体 木造漆箔、高さ約170cm、藤原時代の作です。
  • 仏頭 木造、もと釈迦堂の本尊、丈六釈迦像の首部であったといいます。平安時代。
  • 宮子姫命像 1体 木造、高さ約102cm、合掌姿で藤原時代の作です。
  • 古瓦 十数個 丸瓦と平瓦とあり、いずれも奈良時代のものです。
  • 銅鐸 1個 青銅製、日本有史前青銅器時代の遺物で、江戸時代後期の宝暦12年(1762年)大門(現在駅のある付近)で発掘されたものといいます。
※底本:『日本案内記 近畿篇 下(初版)』昭和8年(1933年)発行
道成寺

令和に見に行くなら

名称
道成寺
かな
どうじょうじ
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
和歌山県日高郡日高川町鐘巻1738
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

道成寺驛の北約半粁、矢田村鐘卷にあり。天音山千手院と號し、丘上景勝の地を占めて居る。

寺傳によると文武天皇の敕願によつて紀大臣道成本寺を創建し、義淵僧正を開山にしたと云ふ。僧安珍の物語により、古來安珍淸姬の寺としてその名を世に知られて居る。現存の諸堂の古建築には本堂及仁王門があり、寺寶には道成寺緣起をはじめ、貴重なる古佛像を多く藏して居る。

樓門[國寶] 勾配急な石段を登り詰めた所に建つて居る。三閒一戶重層の仁王門である。權衡よく整ひ、手法また雄健にして室町時代の特徵を示して居る。

本堂[國寶] 樓門の奧、境內の中央に南面して建つて居る。七閒五面、前面に三聞の向拜があり、單層屋根入母屋造本瓦葺の建築にして、規模雄大、手法殆んど鐮倉時代のものゝ如くであるが、屋根の鬼瓦に「天授四年戊午季春日造」の刻銘があり、恐らく室町時代に再建されたものであらう。內部は內外及後陣の三區に別かれ、內陣の須彌壇上には厨子三基あり、中央に本尊千手觀音の巨像を、左右には日光及月光兩菩薩の立像[國寶]を安置して居る。尙須彌壇上には弘仁時代の木造四天王像[國寶]を安置して居る。

三重塔婆 本堂の前面、向つて右方にあり、方三閒、本瓦葺素木造、江戶時代の建築で、上層には扇棰を使用し、桝組には和樣三手先に龍頭形の尾棰を加へて居る。また蟇股內には鳥獸人物の彫刻を嵌裝し、重厚な裝飾を施して居る。

  • 寶物
  • 道成寺緣起[國寶] 二卷 紙本著色、能や歌舞伎などに仕組まれて名高い道成寺鐘捲の物語を繪卷にしたもので、現存道成寺繪卷中最も古いものである。繪は土佐光重の筆と傳へ、繪の中に詞を入れて說明してあるので頗る活動的である。卷末に足利義昭の花押及天正元年の奧書があるから、天正以前のものであることは明かで、恐らく室町時代中期以後の作であらう。
  • 毘沙門天立像[國寶] 二軀 木造、一は兜跋毘沙門天で高さ七尺八寸二分、相貌雄大にして刀法の遒勁なるはよく平安時代初期の特徵を發揮して居る。他の一軀は高さ約五尺、これも頗る優秀な作であるが、時代は少しく降り藤原時代のあのであらう。
  • 十一面觀音立像[國寶] 一軀 木造漆箔、高さ約四尺五寸、藤原時代の作である。
  • 佛頭 木造、もと釋迦堂の本尊、丈六釋迦像の首部であつたと云ふ。平安時代。
  • 宮子姬命像 一軀 木造、高さ約二尺七寸、合掌姿で藤原時代の作である。
  • 古瓦 十數個 丸瓦と平瓦とあり、何れも奈良時代のものである。
  • 銅鐸 一個 靑銅製、我國有史前靑銅器時代の遺物にして、寶曆十二年大門(今驛のある附近)にて發掘せしめしものと云ふ。

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