早池峰山

早池峯山
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

東北本線で北上川筋の平野を北行すると水沢駅から仙北町駅までの間右窓に北上山脈の上にこの山の緩かな隆起となっているのを望むことができます。この山は岩手山に次ぐ岩手県第二の高峰で、全山斑糲岩からなっています。山開は5月30日、閉山が10月1日とされていますが、7~8月が登山者最も多く、年々約5,000~6,000人に達するといいます。

登山路 石鳥谷駅から大迫まで2km、自動車の便があり、ここから徒歩岳川に沿って岳まで18km、岳は海抜513m、県社早池峯神社があります。社務所または民家で宿泊します。岳から北へ3kmの鶏頭山と毛無森の谷間に七折の滝があります。

岳から早池峯山の頂上までは約9km、岳川の流れに沿って東へ緩かな登りとなっています。ブナやナラなどの森林地を行くと、岳川がところどころ美しい渓流を見せます。笛貫の滝付近を過ぎれば河原の坊の小屋があります。ここから頂上までは約3km、河原の坊で岳川を渡って北に向かいます。登路は急坂となって林も尽き高山らしい眺めとなります。南には薬師岳が望まれ、山麓の大森林が美しく見えます。そこからイタドリの繁りが200mばかり続きますが、これをいたどり坂といいます。それから俗に石跳七里という岩場になります。ここから頂上までは奇岩、怪石の間で霧の時などは迷い易いところです。頂上に近く打石付近から約800mばかりは軽いロッククライミングです。頂上はおおむね岩石のみでかなり広大です。ここに早池峯神社の奥の院と休泊所があり、この山に特有な高山植物のナンブトラノオ、ナンブトウチソウ、ナンブソモソモ、ハヤチネウスユキソウなどが見られます。

山頂では南北見渡す限り北上山脈の山々が打ち続いて山腹には森林が黒く繁り、西ははるかに岩手山の火山円錐を望み、東には太平洋岸に宮古湾や山田湾を望むことができます。

なお早池峯山へは北麓門馬からも登ることができます。門馬は山田線の区界駅から約13km自動車の便があります。ここから山頂までは約10km、閉伊川の一支流御山川に沿って登り、4kmで追分に達し、左手の沢を登り大きなトチやカツラの林の美しい渓谷を経てアオモリトドマツ、アオモリヒバの密林となった急坂を辿ること2kmばかり、次第に林は尽きてやっと身の丈位なトウヒやシラカバの混生林に入ります。道は岩場となって益々急でハイマツ地帯に入り、高山らしい眺望も開けて来て頂上に達します。

この登路は早池峯登山路中最も便利で、山田線が門馬まで開通の暁は表口となるものです。岳口から登山すれば門馬に下って盛岡へ、また門馬から登山すれば岳へ降りて石鳥谷へ出るのが面白いところです。別に遠野からの登山路もありますが、頂上まで40km歩くことになるので、この登路を利用する人は多くありません。

この山は高山植物中北海道その他北地の分子を含みかつこの山特有の種類を産するので、高山植物帯として指定され、公益上必要な場合以外はこれらの採集を許されていません。

※底本:『日本案内記 東北篇(初版)』昭和4年(1929年)発行

令和に見に行くなら

名称
早池峰山
かな
はやちねさん
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
岩手県花巻市、遠野市、宮古市
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

東北本線で北上川筋の平野を北行すると水澤驛から仙北町驛までの閒右窓に北上山脈の上にこの山の緩かな隆起をなして居るのが望まれる。この山は岩手山に次ぐ岩手縣第二の高峯で、全山斑糲岩より成つて居る。山開は五月三十日、閉山が十月一日とされて居るが、七、八月が登山者最も多く、年々約五、六千人に達すると云ふ。

登山路 石鳥谷驛から大迫まで二粁、自動車の便があり、これより徒步嶽川に沿うて嶽まで一八粁、嶽は海拔五一三米、縣社早池峯神社がある。社務所または民家で宿泊する。嶽から北へ三粁の鷄頭山と毛無森の谷閒に七折の瀧がある。

嶽から早池峯山の頂上までは約九粁、嶽川の流に沿うて東へ緩かな登りとなつて居る。ぶなや楢などの森林地を行くと、嶽川が處々美しい溪流を見せる。笛貫の瀧附近を過ぐれば河原の坊の小屋がある。こゝから頂上までは約三粁、河原の坊で嶽川を渡つて北に向ふ。登路は急坂となつて林も盡き高山らしい眺めとなる。南には藥師嶽が望まれ、山麓の大森林が美しく見える。そこからいたどりの繁りが二〇〇米ばかり續く、これをいたどり坂と云ふ。それから俗に石跳七里と云ふ岩場になる。こゝから頂上までは奇岩、怪石の閒で霧の時などは迷い易い處である。頂上に近く打石附近から約八〇〇米ばかりは輕いロツククライミングである。頂上は槪ね岩石のみで可なり廣大である。こゝに早池峯神社の奧の院と休泊所があり、この山に特有な高山植物の南部とらのお、南部とうちそう、南部そもそも、早池峯うすゆきそうなどが見られる。

山頂では南北見渡す限り北上山脈の山々が打續いて山腹には森林が黑く繁り、西方は遙に岩手山の火山圓錐を望み、東には太平洋岸に宮古灣や山田灣が望まれる。

尙早池峯山へは北麓門馬からも登られる、門馬は山田線の區界驛から約一三粁自動車の便がある。こゝから山頂までは約一〇粁、閉伊川の一支流御山川に沿うて登り、四粁にして追分に達し、左手の澤を登り大きなとちや桂の林の美しい溪谷を經て靑森とゞ松、靑森ひばの密林をなす急坂を辿ること二粁ばかり、次第に林る盡きてやつと身の丈位な唐檜や白樺の混生林に入る。道は岩場となつて益々急で偃松地帶に入り、高山らしき眺望も開けて來て頂上に達する。

この登路は早池峯登山路中最も便利で、山田線が門馬まで開通の曉は表口となるべきものである。嶽口から登山すれば門馬に下つて盛岡へ、また門馬より登山すれば嶽へ降つて石鳥谷へ出るのが興味が多い。別に遠野からの登山路もあるが、頂上まで四〇粁徒步によらねばならぬので、この登路によるものは少い。

この山は高山植物中北海道その他北地の分子を含み且つこの山特有の種類を產するので、高山植物帶として指定せられ、公益上必要止むを得ざる場合の外これらの採集を許さゞることとなつて居る。

花巻・早池峰のみどころ