福島・郡山

ふくしま・こおりやま

福島・郡山のエリア一覧

福島・郡山ガイド

東京上野から出発し、荒川を渡って埼玉県に入り鋳物で名高い川口町を過ぎると左右には稲田が見える、このあたりから左窓には富士の秀峰が丹沢群山の上に見え、右窓には筑波山が平野を越えて眺められます。浦和を過ぎると麦畑が展開します。高崎線の分岐する大宮を出て右手に近く見える森は官幣大社氷川神社のあるところ。左には秩父の山々が見え、その中特に高い雲取山の右に武甲山が眺められます。蓮田からは武州鉄道線が分岐して岩槻へ通じます。このあたりから左窓の展望が広くなり、秩父の山々から妙義、浅間、榛名、赤城の諸火山まで見えます。久喜では東武電車線が交叉します。これからは麦畑の間に桑畑が混ざって来て、養蚕地帯に入ったことがわかります。栗橋で利根川の大鉄橋(長さ482m)を渡れば茨城県の一部を掠め、古河を過ぎ、栃木県に入ります。

小山では両毛線と水戸線が左と右に分かれます。このあたりから線路に沿った畑に夏は大きなフクベが見えます。また右窓に映る筑波山の頂に、男体、女体の双峰が鮮かに仰がれます。左窓には日光火山群の諸峯が宇都宮に近づくにつれてよく見え出します。なかでも海抜2,448mの男体山は丸みのある円錐形をなして特に著しくそびえ、その左に白根山、右に大真名子、女貌、赤薙の諸山が並びます。

宇都宮で日光線が分岐します。岡本を過ぎると鬼怒川の扇状地に入り、延長639mの鉄橋で本流を渡ります。橋上で左窓に高原火山が映ります。有名な鬼怒川発電所はこの上流にあって、東京市その他へ電力を供給しています。寶積寺からは烏山線が分かれます。蒲須坂を過ぎると始めて丘陵の間に入り、矢板を経て箒川を渡ると那須野に出ます。箒川の上流に沿って、高原火山の東北麓に塩原の温泉があります。西那須野からは塩原電車が分岐して塩原口に通じます。汽車の那須野を過ぎる間、常に左窓に那須火山がよく映え、噴出するガスが微かに見えます。右窓外には八溝山脈が低平な山背を示して次第に北方に高まり八溝山におよびます。こうして線路は徐々に山峡に向かいます。黒磯は那須諸温泉への下車駅で、この駅を出て那珂川を渡れば那須野は尽き、線路は次第に勾配を増し、黒田原を過ぎてからは左右に山が迫って来て、自ら関門の形勢をなす間を那須岳から下る黒川の谷に沿って上ります。下野豊原を過ぎ、黒川を渡れば列車は東北地方の福島県に入り、やがて分水嶺にあるトンネル(海抜401m)を抜けて阿武隈川の流域に出て、白坂から北に下って白河に着きます。

白河を出て阿武隈川を渡り、川に沿って下り、右窓に鹿島神社の森を見て川から離れ、河畔の耕地を右窓に眺めて久田野を過ぎ、松樹の繁る丘陵の間を走って泉崎に出ます。道すがら右窓には屹立する烏峠の頂に稲荷神社の森が見えます。これから台地上の新開地の間を進みます。遠く右には老年期の阿武隈高原が横たわって左の壮年期の険しい奥羽山脈と好対照を示しているのが見られます。阿武隈川はこの両者の間の幅広い谷の中央を流れ、街道や鉄道はこれに沿っています。矢吹を過ぎると左窓に陸羽街道が線路に平行して通じ、赤松の並木が長く続く間にある鏡石を経、釈迦堂川を渡り、須賀川に着きます。

須賀川を出ると、右窓阿武隈川に接して走る。川の向こうには鈍角三角形をなす蓬田岳の左に宇津峰が仰がれます。安積平野に入り、水郡線の分岐点笹川を過ぎ、左窓に磐梯火山を望み郡山に入ります。

東北本線の郡山から阿武隈高原を越えて、常磐線の平に通じます。郡山から東北に向かい、東北本線を左に見て、稲田、桑圃の間を過ぎ、阿武隈川を渡り、丘陵地に入り、舞木を経て三春に至ります。

三春を出て間もなく三春町の市街を眺め渓谷を辿ってトンネルを抜けると、船引の盆地に出て、右窓には美しい片曽根山(海抜718m)を見、船引に着きます。これから大滝根川を渡り磐城常葉、大越を過ぎ、神俣の盆地に入り、左窓に滝根の石灰石採石場を眺め、神俣に着きます。これから夏井川の支流に沿って峡谷を下り、左窓に矢大臣山を望み、盆地のやや開けたところに出て、小野新町に至ります。

郡山を出て北に向かい陸羽街道に沿って進み、日和田を経て左に安達太良山を望み五百川を渡り、本宮に着きます。

本宮から東北に進み丘陵の間を過ぎ鉄道線路に最も近づく安達太良山を左窓外に眺めつつ二本松に着きます。

二本松を出ると間もなく阿武隈川に近づき、安達原黒塚を右窓に見て進みます。やがて川に遠ざかり、鉄道はさらに北進し安達を経て松川を渡り松川に着きます。

松川から東に進み深い峡谷を作る阿武隈川を渡り、飯野を経て岩代川俣に着きます。この線は将来東に延びて常磐線の浪江に連絡する予定。

松川から丘陵を下り金谷川を過ぎ福島盆地に下り、左窓に吾妻山の火山群を見つつ稲田の間を北走して福島に着きます。松川福島間の上り列車には補助機関車を付します。

※底本:『日本案内記 東北篇(初版)』昭和4年(1929年)発行

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