八溝山

八溝山
※現代の景観です。

昭和初期のガイド文

茨城福島2県の境上にそびえ、海抜1,022m、山頂に八溝嶺神社があり、大山祇命を祀り、それから東南に少し下ったところに坂東二十一番の札所日輪寺があります。神社の祭日も寺の縁日もともに旧4月17日、山中にはケヤキ、杉、ナラ、ブナなどが密生し、特にケヤキは巨大なものが多いところです。

登山道には大子口、棚倉口があります。そのうち大子口から入る人が多いです。大子駅から北10kmの町付まで自動車の便があります。それから久慈川の支流八溝川に沿って、西北に向かい進むこと10kmで蛇穴に至ります。ここまでは道路が平坦です。蛇穴に神社の鳥居があり、それから山頂まで4kmあまり、100m毎に丁石が立っています。はじめは雑木林のなかに進み、1.8kmのところから2.4kmまでの間は西の展望が利きます。特に一本松のところが、よい休場になっています。さらに進むとナラ、ブナ、ケヤキなどの多い森林に入り、右に秋季紅葉の美しい沢を見下し、3.5kmのところからは急な登りとなり、神社の境内に入り、巨杉の間を経て山頂に達します。棚倉からは西南に向かい久慈川の上流に沿って溯り後山背を伝って行きます。山頂まで16km、山頂の神社付近は喬木がなく展望がよく利きます。東から北には阿武隈高原の起伏少ない山頂の並ぶなかに大滝根山、蓬田山を見、それから左に遠く吾妻山磐梯山の屹立しているのを望みます。西には那須諸山のなかに茶臼山の噴烟を見、山腹の湯本から那須野にかけて見下されます。それらの左には高原山、女峯山、男体山が見えます。南には八溝山脈に属する諸山を隔てて筑波山が双峰を示し、遠く富士山が山頂を見せる。その左には大子付近の久慈川の谷が見え、袋田に近い男体山は奇峰を示します。遠くは日立鉱山の煙突と、それから出る煙が見え、また大平洋の海面が見えます。

※底本:『日本案内記 関東篇(初版)』昭和5年(1930年)発行

令和に見に行くなら

名称
八溝山
かな
やみぞさん
種別
見所・観光
状態
現存し見学できる
住所
茨城県久慈郡大子町、福島県東白川郡棚倉町
参照
参考サイト(外部リンク)

日本案内記原文

茨城福島二縣の境上に聳え、海拔一、〇二二米、山頂に八溝嶺神社があり、大山祇命を祀り、それより東南に少しく下つた處に坂東二十一番の札所日輪寺がある。神社の祭日も寺の緣日も共に舊四月十七日、山中には欅、杉、楢、ぶななどが密生し、殊に欅は巨大なるものが多い。

登山道には大子口、棚倉口がある、その中大子口からするものが多い。大子驛から北方一〇粁の町附まで自動車の便がある。それより久慈川の支流八溝川に沿ひ、西北に向ひ進むこと一〇粁で蛇穴に至る。こゝまでは道路が平坦である。蛇穴に神社の鳥居があり、それより山頂まで四粁餘、一〇〇米每に丁石が立つて居る。始は雜木林の中に進み、一粁八の處から二粁四までの閒は西方の展望が利く。殊に一本松の處が、よい休場になつて居る。更に進むと楢、ぶな、欅などの多い森林に入り、右方に秋季紅葉の美しい澤を見下し、三粁半の處からは急な登りとなり、神社の境內に入り、巨杉の閒を經て山頂に達する。棚倉からは西南に向ひ久慈川の上流に沿うて溯り後山背を傳つて行く。山頂まで一六粁、山頂の神社附近は喬木がなく展望がよく利く、東から北には阿武隈高原の起伏少い山頂の竝ぶ中に大瀧根山、蓬田山を見、それより左に遠く吾妻山磐梯山の屹立して居るのを望む。西には那須諸山の中に茶臼山の噴烟を見、山腹の湯本から那須野にかけて見下される。それらの左には高原山、女峯山、男體山が見える、南には八溝山脈に屬する諸山を隔てゝ筑波山が雙峰を示し、遠く富士山が山頂を見せる。その左には大子附近の久慈川の谷が見え、袋田に近い男體山は奇峰を示す。遠くは日立鑛山の煙突と、それから出る煙が見え、また大平洋の海面が見える。

袋田・大子のみどころ