那須登山
昭和初期のガイド文
那須湯本から山頂までは約5.5kmです。まず北へ進み温泉神社に至り、その後、賽河原へ下ります。そこから殺生石のそばを通り、岩が多い坂道を登っていきます。その後、辨天澤を右手に見ながら、レンゲツツジ、ヤシオツツジ、ドウダンツツジ、ヨウラクツツジなどが多く咲く高原を西北方向へ進むと、那須五山が前方に並びます。辨天温泉や大丸温泉を右に見ながら、さらに傾斜のある山道をたどると、硫黄製錬所に到着します。ここは標高1,480mで、東側の眺望が広がります。そこから明礬澤を左手に見ながら進むと、茶臼岳と朝日岳の間の鞍部に達します(標高1,725m)。この地点は分水嶺と呼ばれており、夏季には茶店が設けられます。茶臼岳へ登るには、南へ進み硫黄運搬用の索道(ケーブル)を横切って左折し、外輪山を登ります。右手に火口原を見ながら徐々に南へ向かい、爆裂火口を右に見ながら西へ折れると、高湯山の頂上に到達します。この山頂は標高1,917mで、北には近く朝日岳や三本槍岳、遠くには吾妻山や磐梯山を望むことができます。また、西には三倉山をはじめ帝釈山脈の山々が波のように連なり、西南には高原山や日光の火山群が見えます。南には近く南月山や黒尾谷山があり、東南方向には湯本や新那須温泉の人家が見下ろせます。さらに那須野から関東平野がはるか遠くまで広がっています。東には裾野の先に八溝山脈や阿武隈高原が平らな山頂を連ね、近くには白河周辺の田園風景が広がります。山頂から西へ下ると、明治17年(明治時代、1884年)の噴火によって生じた「無言の谷」と呼ばれる噴気孔に出ます。この場所では現在も硫黄の採集が行われています。そこから硫黄運搬用の軌道に沿って北へ進むと、大噴やその他の噴気孔を経由して分水嶺に戻ります。
朝日岳に登る場合は、分水嶺から左へ進み、急峻な岩場をよじ登ります。その周辺ではガンコウラン、コケモモ、クロマメノキなどが岩の間を彩っています。馬の背のような道をたどって剣ヶ峰に至り、さらに険しい崖伝いに進むと、朝日岳の山頂に到達します。北側は見渡す限りハイマツで覆われており、南側は剣ヶ峰から続く絶壁が赤褐色の溶岩でむき出しになっています。山頂からの眺望は広く、三本槍岳への道は分水嶺から右に取ります。朝日岳の登り口を右手に見ながら北へ進むと、最初は平坦な尾根道が続きます。その後、つま先で登るような道を越え、いくつかの尾根を進むと熊見曽根に至ります。ここから急坂を下り、大倉場の火口跡に出ます。その後、簾山の裾を回り込みながら三本槍岳の頂上に登ります。この一帯では、ハイマツが低く地を這い、シャクナゲ、オオカメノキ、ミヤマナナカマドなどが混ざり合って生えています。三本槍岳から北を望むと、近くには甲子旭岳(標高1,835m)がそびえ、その右には甲子山(1,549m)、大白森(1,656m)、鎌房山(1,510m)が峰を連ねています。その眺望の美しさは、茶臼岳の山頂と同様に素晴らしいものです。
令和に見に行くなら
- 名称
- 那須登山
- かな
- なすとざん
- 種別
- 見所・観光
- 状態
- 現存し見学できる
- 住所
- 栃木県那須郡那須町
- 参照
- 参考サイト(外部リンク)
日本案内記原文
那須湯本から山頂まで五粁半、先づ北進して溫泉神社に至り、次に賽河原に下り、殺生石の傍を過ぎ、岩塊の多い坂道を登る。それより辨天澤を右に見て、れんげつゝじ、やしほ、どうだん、やうらくつゝじなどの多い高原を西北に進めば、那須五山が前方に竝ぶ。辨天大丸の二溫泉を右に見て、傾斜の加はる山道を辿れば、硫黃製煉所に至る。こゝは海拔一、四八○米、東方の展望が廣い。これより明礬澤を左に見て茶臼朝日兩山の鞍部(一、七二五米)に達する。こゝを分水界と稱し、夏季は茶店が設けられる。茶臼岳に登るには、南進して硫黄運搬の索道を橫ぎり、左に折れ外輪山に登り、右に火口原を見て漸次南に轉じ、爆裂火口を右にして西に折れ高湯山の頂上に達する。こゝは海拔一、九一七米、北には近く朝日岳、三本槍岳を見、遠く吾妻山、磐梯山を望む。西には三倉山を始とし、帝釋山脈の諸峯が波濤の如く連り、西南には高原山、日光諸火山が眺められ、南には近く南月山、黑尾谷山が見える。東南には湯本や新那須溫泉の人家が見下され、那須野から遙に續く關東平野が末遠く望まれる。東には裾野を隔てゝ八溝山脈、阿武隈高原が平らな山頂を連ね、近く白河附近の稻田が眺められる。山頂から西に下れば明治十七年の噴火により生じた無言の谷の噴氣孔に出る。こゝでは硫黄が採集されて居る。これより硫黄運搬の軌道に沿ひ北に進めば、途上大噴その他の噴氣孔を見て分水界に復歸する。
朝日岳に登るには、分水界から左に取つて、急峻なる岩角を攀ぢる。そのあたりにはがんこうらん、こけもゝ、くろまめのきなどが岩間を綴つて居る。馬背狀の處を辿つて劍ヶ峰に至り、更に岨傳ひに朝日岳の頂に達する。北側は見渡す限り假松で掩はれ、南側は劍ケ峰續きの懸崖で赤褐色の熔岩が裸出して居る。山上の展望は廣い、三本槍岳に行くには、分水界から同じく右に取つて、朝日岳の登り口を右に見て北進、始は平坦な山の背を通り、更に爪先上りの道を過ぎ、二三の尾根を越えて熊見曾根に登る。それより急に下つて、大倉場の火口址に出で、簾山の裾を廻つて三本槍岳の頂に登る。この間一帶に偃松が低く匍ひ、しやくなげ、おうかめのき、みやまなゝかまどなどを混じて居る。三本槍岳から北望すれば近く甲子旭岳(一、八三五米)が峙ち、その右に甲子山(一、五四九米)大白森(一、六五六米)鎌房山(一、五一〇米)が峰を連ねて居る。その他茶臼岳頂上同樣の展望美を有する。